彼女は釘を刺すことをやめられない。
夜通し藁人形に釘を刺し続けます。
しかし呪いは成就したのでしょうか?
歌詞には書かれていません。
コンコン コンコンと歌い続けるところを聴いてみます。
この呪いは彼女の自室で完結してしまっただけのように思えるのです。
畳敷きのこの自室の外に彼女の呪いが伝播することはない。
呪いの恐怖、呪縛に一番ハマってしまったのは藁人形に釘を刺すこの歌の主人公の女性自身なのです。
恨みや呪いの気持ちを抱くこと自体の愚かさを嘲笑する黒い歌。
それが山崎ハコの「呪い」の正体です。
不幸な誤解が広まる
しかしこの「呪い」の歌詞はあまりにも表層的に捉えられてしまいました。
山崎ハコの深い意図は読み解かれることなく、藁人形に釘を刺す女性の異様さだけが注目されます。
本当に呪いを成就させてしまう女性の歌として解釈されてしまいました。
深夜ラジオなどで恐怖の歌として紹介されて、そのイメージが都市伝説的に伝播します。
こうした不幸な誤解をされて怖い歌とされる曲は他にもたくさんあります。
ネットで広まる「世界三大憂鬱曲」
ネットで増殖する都市伝説
いま、ネットで「世界3大憂鬱曲」という触れ込みで騒がれている曲があります。
有名なハンガリーの流行歌「暗い日曜日」。
ロマン派のピアニスト・シャルル=ヴァランタン・アルカン作曲の「海辺の狂女の唄」。
日本のノイズ・アヴァンギャルド・バンド「カールマイヤー」による「カールマイヤーep.」
どの曲も聴いた人が精神崩壊して自殺したという都市伝説で有名になります。
聴いた人が自殺した?
「暗い日曜日」は日本語で聴くには浅川マキによる歌唱が一番原曲の雰囲気を伝えています。
しかし浅川マキの素晴らしい歌を聴いて自殺する人はいません。
カールマイヤー (karlmayer)による「カールマイヤーep. (karlmayer ep.)」はヴォイス・パフォーマンス。
あまり耳慣れない前衛的な音楽のために曲の趣旨を理解されず、「聴いたら精神崩壊する」といわれます。
自殺者が出たというパターンの都市伝説もありますが、実際にはそんな事件は確認されていません。
結局、ネットでの都市伝説化というのは好事家にとっての「ネタ」に過ぎないのです。
山崎ハコの「呪い」もこうした不幸な勘違いをされた音楽のひとつになります。
この辺の事情について知りたい方はネット上を色々と検索してみてください。
もっとも都市伝説では「検索してはいけない言葉」とまでいわれています。
あくまでも自己責任でどうぞ。
情念を叩きつけるSSWたちの登場
中島みゆき「生きていてもいいですか」
山崎ハコの「呪い」は好事家によるネタの餌食にされて、歌が伝える大切な部分が誤解されています。
おどろおどろしい歌のイメージは払拭されずに、「呪い」が山崎ハコのパブリック・イメージになるのです。
ただ、当時の日本の音楽界の下地にはこうした情念を歌うSSWが多かったことも考慮しなくてはいけません。
「呪い」が収録されたアルバム「人間まがい」。
その後年には黒いジャケットに白い文字でタイトルだけが書かれたアルバムが発売され話題になります。
このアルバムの1曲目「うらみ・ます」の嗚咽を伴う絶唱が人々を震撼させます。
中島みゆきと山崎ハコは当時、ファンの間で「ライバル」と目されていました。
「ライバル」関係というよりもファン層が重なっていたのでしょう。
友川カズキの気迫
情念の歌い手の第一人者
男性のSSWに目を向けると友川カズキ(昔は友川かずき)がいます。
彼も情念とありったけの魂魄を歌に託し、壮絶な歌を唄い続けています。
歌い方があまりにも激しいために、その真摯な歌もどこかネタ化されたりしました。
山崎ハコと通ずる点が多いかもしれません。
いまなお続く音楽活動
山崎ハコも中島みゆきも友川カズキもいまなお精力的な音楽活動をしています。
やはり人間の本質に迫ろうと身を削り歌うアーティストは永く愛され続けるのです。
山崎ハコは横浜を拠点にして活動。
全国のライブハウスで歌い続けています。
キャリアの途中で事務所がなくなるなどの不運が重なっても活動をやめません。