呪術を歌にしてみせた「呪い」
丑の刻参り
日本には古代より人形(ひとかた)を用いた呪術がありました。
人形に釘などを打ち付けると、呪った対象の人に怪我や病気などの災いが訪れるというもの。
江戸時代にはこれが丑の刻参りとよばれる呪術に進化します。
毎晩、藁人形に五寸釘を打ち込む儀式で相手を呪うという恐ろしい慣習。
そんな呪術を歌にしてみせたのが、山崎ハコの「呪い」であります。
シングル・カットなどはされておらず、「人間まがい」というアルバムの一曲に過ぎないです。
しかしあまりにも聴く者に訴えかけるものが大きく、カルト的な人気を得ます。
とはいえ、よく読み解くとこの曲の歌詞は丑の刻参りとは少し様相を異にしているのです。
山崎ハコはこの歌にどんな想いを寄せたのでしょうか。
仔細に紐解いていきましょう。
自室で呪術を行う女性
石川鷹彦による流麗なアレンジ
コンコン コンコン 釘をさす
コンコン コンコン 釘をさす
たたみが 下から 笑ってる
出典: 呪い/作詞:山崎ハコ 作曲:山崎ハコ
歌い出しの歌詞です。
山崎ハコの歌唱は怨念を感じさせて怖さがあるのですが、決して単純な激情型ではありません。
むしろ抑制が効いた見事な歌唱です。
編曲が石川鷹彦だけあってアコースティック・ギターの流麗なアルペジオ。
おそらく演奏も石川鷹彦かもしれません。
こんな丁寧な演奏に不釣り合いな恐ろしい歌詞であります。
畳に嘲笑われているのは誰?
藁人形に釘を刺す女性の歌。
ところが丑の刻参りとは違って彼女の自室で行われているようです。
藁人形の下の畳が嘲笑うとはどういうことでしょうか?
畳に嘲笑われているのは藁人形に釘を刺す女性自身かもしれません。
痛むのは自分の胸
重要なライン
コンコン コンコン 釘をさす
わらの人形 釘をさす
自分の胸が 痛くなる
出典: 呪い/作詞:山崎ハコ 作曲:山崎ハコ
藁人形は呪詛に使われます。
呪術が成立しているとしたら痛むのは釘が刺された相手の身体であるはず。
しかし痛むのは自分の胸だと山崎ハコは歌います。
不思議なラインですがのちにこの歌詞の全体像が見えるときにとても重要になる箇所です。
釘に歌を覚えさせる
女性シンガーの先駆け
コンコン コンコン 釘をさす
唄いながら 釘をさす
釘よ 覚えろ 覚えろ この唄を
出典: 呪い/作詞:山崎ハコ 作曲:山崎ハコ