毎日はいろんな出来事であふれています。
一見同じ毎日も、ちょっとずつ違う出来事が積み重なり、少しづつ変化しています。
特別な思い出は、日々の出来事とは異なり、長く記憶に留まっていることも。
誰かを愛し、愛されそして幸せだった思い出は胸の奥深くで色褪せることなく鎮座しているでしょう。
色褪せていない、と思いながらも時間と共に記憶は薄くなっていきます。
船の汽笛が徐々に遠ざかっていくように。
人生のある時期にクロスした相手は、ゆっくりと確実に遠ざかって小さくなっていきます。
いったん港を離れた船が二度と振り返ることはないように、離れたあとはただ遠ざかるだけ。
主人公は戻ることのない二人の時間を、お酒で静かに飲み下していくのでしょう。
どうしているの
どんな風に生きているの
過去に別れた恋人について、その現状を案じるときには大きく分けて二つのパターンがあります。
一つは、筒がなくそして変わりなくいて欲しいというパターン。
こちらは、幸せでいて欲しいという思いが根底にあります。
場合によっては、もう一度会いたいという気持ちが加わることもあるでしょう。
ただ一目会いたいということもあれば、会って一言だけ伝えたいと考えることも。
もう一つは、どうでも良いという感覚でこちらはどちらかといえば思い出すことも殆ど無いかもしれません。
恋愛というのは男女の組み合わせの数だけパターンがあるもの。
その渦中にあるときには、この恋愛が自分にとってどれほど大きなものであるかということがわかっていなかったりします。
恋が終わったときに初めて相手の愛の大きさや、自分の気持ちに気付くものです。
お酒を飲みながらふと思い出した彼のコト。
元気でいるのかな、変わりなくいてくれたらよいのに、そう思うときに失った恋の大切さに気付きます。
今の私は
いつかは忘れる 人なのに
飲めば未練が またつのる
あの人 どうしているかしら
くらしも荒れた このごろは
おもいで酒に 酔うばかり
出典: おもいで酒/作詞:高田直和 作曲:梅谷忠洋
一人、思い出とお酒に酔いながら主人公は、想いを募らせていきます。
その想いの行き着く先はどこなのでしょうか。
別れるということ
男女が別れるときに、この人のことはきっと忘れられないだろうと思うことがあります。
実際に口に出して、「あなたを忘れないよ。」ということもあるかもしれません。
しかし、人間というのは悲しいかな離れてしまえば忘れるのです。
別れてしまった以上は、その記憶さえも薄れていくだけ。
いつか主人公が男性のことを忘れてしまうように、男性もまた主人公のことを忘れてしまいます。
別れた人のことは忘れてしまわなければ、次に進むこともできません。
主人公はわかっています、いずれ自分は新しい恋をして男性のことを忘れることを。
そして、男性もそれは同じ。
狂おしいほどに愛した記憶は、やがて風化し記憶の奥の方へ追いやられていく。
それを思うと余計にやり切れず、主人公の酔いはより一層深くなるようです。
彼なしで
待つ人のいない生活、止めてくれる人のいないお酒。
それは、虚しくやがて節度を失っていくことがあります。
悲しみや寂しさを紛らすためのお酒には溺れてしまいやすいものです。
主人公を気遣い、体の心配をしてくれたあの人、彼は今頃は、別の誰かの心配をしているのだろうか。
それとも、自分と同じように一人お酒に酔っているのか。
悲しみや未練を肴に飲むお酒は、あまりに苦く終わることがありません。
お酒がつなぐおもいで
小林幸子のロングヒット「おもいで酒」について読み解いてきました。
人生の駒を進めて行く中には、出会いがあり別れがあります。
男女の別れの場合は、タイミングや運といったものも関係するため、必ずしもどちらかが悪いというものではありません。
ただ、中にはやはり後悔と未練の残る別れもあります。
じわじわと時間が経つほどに身に染みる別れた人の優しさや想い。
二人の関係が過去となった今は、取り戻すことはできません。
別れた人の名残を感じながら飲むお酒。
その苦味は、彼が味わった心の痛みの味なのかもしれません。
二人のおもいでを飲み干しながら、かつての恋はやがて本当の思い出に静かに変化していきます。
酒は人生の相棒。そう考える人も少なくないないでしょう。
お酒をテーマにしたこんな一曲もぜひどうぞ。