春よ、来い/松任谷由実

【春よ、来い/松任谷由実】教科書にも掲載される名曲!歌詞の意味を改めて解釈してみた!コード譜ありの画像

「春よ、来い」(はるよ こい)は、松任谷由実の26枚目のシングル。1994年10月24日に東芝EMIからリリースされた (TODT-3360)。

出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/春よ、来い_(松任谷由実の曲)

松任谷由実が書いた「春よ、来い」は、誰もが聴いたことがある曲だと思います。

数々のCMタイアップを経て、今や音楽の教科書にも載っています

この曲は歌詞に難しい言葉が使われているので、全て記憶されている方は少ないでしょう。意味がわかりづらい曲ほど覚えにくいものですよね。

この記事では歌詞を振り返りつつ、その意味を考えていきたいと思います。

様々な人が出会い別れを経験する季節、春。

少しずつ暖かくなりゆくその季節で、皆さんは何を思いますか?

新たな旅立ちへの期待不安

それと同じくらいに、いやそれ以上に、住み慣れた場所を離れる寂しさや愛する人との別れの辛さ

春という季節に何を感じても、何を思っても。全ての人の元に、みな平等に春はやってくるのです。

訪れる春の中で揺れ動く人の美しい心の機微

それをユーミンは穏やかに優しく、このように歌い上げていました。

また本記事では、歌詞とともにコード譜も紹介しています。

こちらもあわせてチェックしてみて下さいね。

春を待つ歌は別れに彩られる

雰囲気で誤解されがちですが、これは冬から初春にかけての歌です。

葉が全て落ち冬枯れた山や強い風が吹きすさぶ湖など、寒々とした風景をイメージしてください。

まだまだ厳しい寒さの続く中で、ふと時折神様の気まぐれのように訪れる春の気配

冬の日のなかで一瞬、ほんの少しだけ暖かな風が吹いてきたり。

少しずつ陽の落ちる時間が遅くなっていき、日が伸びたなあ、なんて感じる中。

照りつける太陽の日差しが、僅かに柔らかく穏やかに感じたり。

少し早咲きの春の花が、ぽんとそこだけ色鮮やかに道端に咲いていたり。

この歌はそんな冬の景色の中で、微かに感じる春の気配を掬い上げていくかのように歌っています。

文語を交えた言葉遣い

G♭6 A♭ B♭m

B♭m G♭6 A♭ D♭M7
淡き光立つ 俄雨
G♭ A♭ D♭ A♭ Fsus4 F
いとし面影の沈丁花
B♭m G♭6 A♭ D♭M7 A♭
溢るる涙の蕾から
  B♭m Fm7 G♭ A♭ B♭m
ひとつ ひとつ香り始める

出典: 春よ、来い/作詞:松任谷由実 作曲:松任谷由実

流麗な言葉遣いが一貫して使われています。滑らかさが心地よいです。

教科書に出てくるような文語がこの曲の雰囲気を作り上げています。

それらには深い意味が込められていました。

冒頭から、歌詞の中に登場する言葉の中にあまり馴染みのないワードもあるかと思います。

その中でも、特に歌詞の表現において重要な単語をあわせて解説していきましょう。

俄雨

「俄雨」はにわか雨と読み、突然の大雨の内すぐ止むものに使います。

「俄」には「突然に」という意味があります。

人偏に我が使われているのは「人が我に返る」こと、つまり「意識と無意識がすぐに入れ替わる」ことが漢字の成り立ちになっているからです。

この字を持ってきたのは意図的でしょう。意識と無意識の移ろいを示す「俄」が、光や雨が心の風景であることを示しているのだと思います。

心の中は淡い光(=愛)に満ちているけれども、大雨が突然降るほど不安定なのです。

なぜ不安定なのか、それは花に秘密があります。

沈丁花

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 沈丁花(じんちょうげ)は2月末から3月頃に花を咲かせる木で、その香りで春の訪れが近いことを知らせます。

歌詞でこの花が香り始めているということは、春が近いということでしょう。

そして沈丁花は「面影」という言葉で擬人化され、「この曲の主人公」の姿に重ねられます。

松任谷由実は沈丁花の香りを涙に例えます。春が来て欲しくない人が、近づく季節を思い涙する

花が香れば香るほど、つまり涙が増えれば増えるほど、春は近づいてくる。思えば春は出会いの季節であると共に別れの季節なのです。

あの人と別れる未来を思い、涙する日が増え、春がやってくるのです。

松任谷由実の言語能力の高さが伺える1節です。

春が君を連れ去っていく

  G♭M7    A♭/G♭
それは それは 空を越えて
  G♭M7 D♭/F E♭m6 E♭m7/A♭ D♭M7 D♭7
やがて やがて 迎えに来る

G♭6 A♭ B♭m G♭6 A♭ B♭m
春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに
G♭6 A♭ B♭m G♭6 A♭ B♭m
愛をくれし君の なつかしき声がする

出典: 春よ、来い/作詞:松任谷由実 作曲:松任谷由実

そして春はやって来て、「愛をくれし君」を連れて過ぎ去りました。

君と過ごしたあの春は遥か遠くへ…。

君との愛の日々であり、青春の日々であったあの春、来て欲しくなかった季節は別れをもたらしたのです。

ここの歌詞から、君と私の別れはるか遠い頃のものであることも薄っすらと読み取れますね。

けれど確かに、あの別れを経験したのは今時分の初春の頃だったのでしょう。

この時期がくると、あの当時のことをいつも思い出すのです。

眼を閉じた瞼の裏に鮮明によみがえる、私に愛をたくさんくれたあの人の姿

その姿だけではなく、私の名前を愛おしそうに呼ぶその声ですら。

まるで昨日のことのように、色鮮やかにはっきりとその存在は私の中に未だ残っているのです。

人という生き物は悲しいかな、様々なことを忘れていく生き物です。

5年前、10年前の嬉しいことや悲しいこと、当時あれだけ仲良くしていた友の姿。

もうすっかり忘れてしまった、という人もけっして少なくないはず。

そんな中でも、まだ記憶の中に鮮明に焼き付いている人の姿。

自分にとって一生に一度あるかないかの、強い想いを持った相手だったのではないでしょうか。

移り行く季節に込めた、愛する人への想い