せわしい時の中 言葉を失った人形達のように
街角に溢れたノラネコのように
声にならない叫びが聞こえてくる

出典: ありがとう…/作詞:KOKIA 作曲:KOKIA

“声にならない叫び”という悲痛な印象の言葉。

“あなた”を失ったことに対する、言葉にできないほどの深い悲しみが伝わってきます。

ここにきてはじめて、これまでは平坦だった感情が、一瞬にして強く揺れます

それでも音楽は変わらず、淡々とした調子のままです。

あふれる切実な想い

もう一度だけ…

もしも もう一度あなたに会えるなら
たった一言伝えたい ありがとう ありがとう

出典: ありがとう…/作詞:KOKIA 作曲:KOKIA

しかしサビ部分に入ると、メロディーの動き方にも変化がみられ始めます。

その変化というのは、それぞれのフレーズが高い音からはじまるようになったこと。

何度も何度も高い音が使われることによって、そこに自然と感情が入ります

それに加え、ここまでの部分では、どのフレーズも低い音からはじめられていました。

そのコントラストもあって、感情の振れ幅が大きくなったのがよく伝わるのです。

といっても、激しい感情ではなく、おさえきれなくなった感情が表されているように感じます。

 

更に、歌詞も切実さを増します。

“もう一度”“たった一言”、それだけの願い。

たったそれだけなのに、その願いは決して叶うことはありません

語り手もそれは自覚していて、だからこそ“もしも”と言っているのです。

“あなた”はもういない

時には傷つけあっても あなたを感じていたい
思い出はせめてもの慰め いつまでもあなたはここにいる

出典: ありがとう…/作詞:KOKIA 作曲:KOKIA

語り手はただ思い出を振り返ることしかできません。

なぜなら思い出の中にだけ、“あなた”は存在するのだから。

傷つけあうとしても、あなたと一緒にいたい。

なのに傷はひとつも増えないまま、ただ思い出に浸ることしかできない。

その夢想と現実とのギャップが、切ないほどに胸を締めつけます。

繰り返されるサビ部分

ここまでで、「ありがとう…」に出てくる歌詞はすべて紹介し終わりました。

あとはサビ部分が繰り返されるだけです。

だからといって退屈だなんてことはまったくありません。

むしろ何度も繰り返されることで、そのたびに切なさが増していきます

魅力のヒミツ

普遍性のある音楽

はじめのほうでも書いたように、「ありがとう…」はとてもシンプルな音楽です。

ただ歌うだけだとしたら、とても簡単に感じられる音楽ともいえます。

強烈な個性があるわけでも、ものすごく凝った言葉や音が使われているわけでもありません。

しかし、まさにそのことが、この曲に普遍的な魅力を与えているのです。

時代や聴き手の性別・年代、もしかしたら国さえも。

そういうものをやすやすと越えていく何かが、この曲にはあると思います。

この“普遍的な魅力”というのは、KOKIAの音楽全般にもいえることなのかもしれません。

それは、彼女が国内のみならず、海外でも活躍していることからも明らかです。

普遍性のある歌詞

音楽と同じように、歌詞にも普遍性があります。

というのも、この歌詞には、“あなた”の具体的なイメージが存在しないからです。

歌詞からわかるのは、“あなた”がもういないことそして語り手にとってかけがえのない存在だったこと

たったそれだけです。

その人が恋人なのか、家族なのか、友だちなのか、恩師なのか…。

それとも、実は人間ではなく可愛がっていたペットなのか…。

それすらもわからないのです。

しかし、そのおかげで聴き手は、それぞれ自分の境遇に合わせて想像ができます

つまり、聴き手の数と同じだけ“あなた”が存在するということです。

それが多くの人の共感を呼び、時が過ぎても変わることのない魅力を生みだしているのだと考えられます。

心揺さぶる歌声にも注目