不思議なタイトル

語感とイメージ

SHAZNA「すみれ September Love」の意味は諸説あり!原曲誕生の背景から歌詞を解説の画像

「すみれ September Love」は、何とも奇妙なタイトルの曲です。

決して風変わりな単語を使っているわけではありません。

しかし、一般的に「すみれ」は春の花

これに対し、9月を意味する「September」は秋

並び立つ単語は、どう考えてもミスマッチです。

タイトルを通した意味を考えてみても、明快な答えは浮かんできません。

とはいえ、日本語と英語がうまく並んだタイトルのセンスはバツグン!

語感が良く、オシャレで洗練されたニュアンスです。

これといった意味はないのに、なぜか魅力を感じさせるタイトル。

この不思議な曲は、どのようにして生まれたのでしょうか。

化粧品のキャンペーン曲に

戦後ニッポンの豊かさが頂点を極めた80年代。

華やかで斬新。消費者の感性を刺激する広告文化が本格的に普及した時代です。

そんなムーブメントを積極的に利用したのは、化粧品業界でした。

メーカーは季節ごとに新製品キャンペーンを打ち、強いインパクトを放つテレビCMを制作します。

テレビCMに欠かせないのは、目新しくて魅力的なキャストと、キャッチコピー。

そして、斬新な映像をさらに引き立てるタイアップ曲でした。

「すみれ September Love」も、その1つ。

82年秋、この曲はカネボウの「レディ80・パウダーアイシャドウ」キャンペーン曲に採用されます。

キャッチコピーありきの曲?

ハリウッド女優まで登場!

「すみれ September Love」が流れるCMに起用されたのは、ハリウッド女優のブルック・シールズ

当時、世界一の美女と言われ、海を隔てた日本でも高い人気を誇っていました。

お茶の間の目を奪ったのは、日本の曲に合わせて微笑みながらステップを踏む大女優の姿。

思わず息をのんで見入ってしまう映像には、さらなる仕掛けが加えられます。

バックに流れる曲のサビに合わせて登場するのは、「すみれ September Love」のテロップ

その書体だけでなく、文字の上に花びらが舞う意匠まで、レコード・ジャケットと同じでした。

キャンペーン曲のタイトルがそのまま、キャッチコピーになっていたのです。

「すみれ」は「すみれ色」?

テレビCMで宣伝されたのは、アイシャドウの「新色すみれ色」

「秋のレディ80」「秋のバザール」というナレーションも、「September」にピッタリです。

こうした事実が、ある1つの推測を成り立たせます。

この曲は、あらかじめ用意されたキャッチコピーに合わせて作られたのではないだろうか。

つまり、82年秋のカネボウのキャンペーンのために書かれた曲ではないだろうか、ということです。

実際、こうして完成したのが、82年夏のカネボウのキャンペーン曲「赤道小町ドキッ」

すでに決まっていた「赤道小町」のキャッチコピーをべースにした曲です。

また、キャンペーン曲では、アイシャドウに多用されるパープルを意識したタイトルも目に付きます。

74年の資生堂のキャンペーン曲は「海岸通りのぶどう色」

79年のカネボウは「セクシャル・バイオレットNo.1」でした。

いずれの曲のタイトルもまた、キャンペーンのキャッチコピーと一致しているのです。

雰囲気重視の歌詞

「YOU-YOU-YOU」に「ラィララィラ…」

それは九月だった
あやしい季節だった
夕やみをドレスに変えて
君が踊れば都会が踊る

まるでマンハッタン・ストーリー
君さえいればパラダイス
昔見たシネマのように
恋に人生賭けてみようか

YOU-YOU-YOU 誘惑の摩天楼
YOU-YOU-YOU 夢が花咲く

すみれ September Love
踊ろう September dancing
明日は明日ラィララィラ…
君は夢か幻

出典: すみれ September Love/作詞:竜真知子 作曲:土屋昌巳

「すみれ September Love」の歌詞も、タイトルに負けず劣らず「浮遊」しています。

そこには特別な物語も、メッセージもありません。

歌詞のつかみどころのなさは、Aメロが「それは」という抽象的な代名詞で始まる点にも表れています。

「それ」の前に歌詞は存在しないため、「それ」が何を指すのかは分かりません。

結局、最後まで触れられることはなく、謎のままです。

一方で、次々に繰り出されるのは「マンハッタン・ストーリー」「誘惑の摩天楼」といったフレーズ。

異国の大都会の映像が目に浮かぶようで、オシャレで洗練されたイメージが広がります。

極め付けは「YOU-YOU-YOU」に「ラィララィラ…」

これらもまた、明確な意味を持ちませんが、リズミカルでインパクトのある語感が並びます。

この曲の作詞を担当したのは、歌謡曲のジャンルで活躍していた竜真知子。

キャンディーズの「ハートのエースが出てこない」。

狩人の「あずさ2号」。

河合奈保子の「スマイル・フォー・ミー」。

これらは、彼女が作詞を手掛けたヒット曲の一部です。

誕生から数十年を経ても、そのタイトルや歌詞が記憶に残り続け作品を生み出しました。

作曲は土屋昌巳