天野月子【蝶】歌詞の意味を考察！上手に羽ばたくとは何を象徴する？君との関係で叶わなかったことを紐解く

夜のイメージを引き継いだまま、わたしが求めるのは君のことだけ。

闇夜を照らすかすかな月灯りの中、手探りで相手に触れて重なりたいと願います。

在処という君が帰ってくる場所でいたいと「信じた」。

この部分が過去形になっていることに注目します。

信じていたけれど、それが叶わないことを知ってしまった。

わたしが願い、叶わなかった君との関係は「ずっと君の在処でありたい」ということなのです。

けれどずっと一緒にはいられないとわかってしまった。

生きていく限りどこかで愛する人と離れなくてはならない悲しみ。

これは繭が澪に抱いていた思いであり、誰もが大切な人に抱く感情でもあります。

2番のサビです。

1番では「焼けつき」だった場所は「燃え尽き」となり、紅い炎のイメージを残したまま変化します。

燃え尽きて消えた場所。

それは地図から消えた「零～紅い蝶～」の舞台、皆神村を思い起こさせます。

ここにはもうひとつの双子の物語があります。

かつて皆神村で儀式が行われた際に捧げられた双子、紗重と八重。

ふたりは村から逃げようとしますが、紗重は捕まってしまい八重だけが逃げ延びます。

八重は戻ってきてくれると信じていた紗重。

けれど八重は戻ることはなく、紗重だけが儀式に捧げられました。

その結果儀式は失敗し、皆神村は闇に閉ざされてしまいます。

実際は八重は村に戻ろうとしていました。

ですが既に闇に閉ざされてしまった村には入ることができなかったのです。

八重が戻らなかった紗重と、紗重の元に戻れなかった八重。

ふたりにとっての取り戻せなかった約束の場所が皆神村なのです。

ちぎれた痛みという言葉は、愛する双子の片割れを失った紗重と八重に重なります。

儀式が失敗し、闇夜の中に閉ざされた皆神村。

その中で羽ばたくわたしは、戻らない愛する双子を待ちながら命を落とした紗重の魂なのでしょう。

愛する人を失い、裏切られたと感じた痛み。

その想いを抱えたまま死んだ紗重は、境遇も姉妹への思いもよく似た繭に憑依します。

愛する人にどうか見つけてほしい。

そう願う魂の叫びを感じる歌詞です。

わたしが何より願うのはあなたと共に在ること。

声も届かなくなってしまうくらいなら、いっそ共に在るうちに愛する人の手で壊されたい。

わたしのままでいられるうちに終わってしまえば幸福なのです。

わたしがわたしでなくなってしまうような感覚。

それは紗重に憑依された繭を連想させます。

けれどその願いは叶わず、君は穏やかに消えていく。

残されたわたしが願うのは蝶という魂の形になり、君のそばにいることだけ。

愛する人と永遠に離れずに共に在りたい。

生きている限り別れがいつかやってくるなら、いっそ愛する人の手で命を終えたい。

それは「零～紅い蝶～」の物語で描かれた内容であり、同時に誰かを愛すれば誰もが感じるものなのでしょう。

激しく切ない、叶わなかった願い。

傷つきながらも愛する人とひとつになるという願いを叶えてくれる幸福の象徴が蝶なのです。

だからこそこの一曲は主題歌としてのみならず多くの人の心を揺さぶります。

古くから蝶は魂や再生の象徴として知られてきました。

そんな、魂となって愛する人と共に在りたい強い願いがここには込められているのです。

深く切なく心に響く世界を描く天野月子。

「天野月」名義での活動も含め、その独自の世界観と歌声は一度聴けば忘れられない力を持ちます。

そんな天野月子とホラーゲーム「零」シリーズとのタイアップは他の作品にも引き継がれました。

こちらの記事ではシリーズ「零～刺青の聲～」の主題歌「聲」を徹底解説しています。

是非チェックして、天野月子の世界を深く楽しんでみてください。