天野月子初期の名曲
「箱庭」「箱舟」に続く一曲
天野月子の「ウタカタ」は初期の名曲と名高い一曲です。
ストリングスが壮大な印象を感じさせるバラードナンバー。
天野月子の切ない歌声と相まってドラマチックな感動を与えてくれます。
「箱庭~ミニチュアガーデン~」「箱舟」に続く一曲として描かれたこの曲。
閉じた幸福な世界を描いてきたこの二曲に対して「ウタカタ」では新しい世界に踏み出す姿が描かれています。
しかしそれは切なさと哀しさを感じさせるものでした。
わたしが踏み出した世界とはどんなものなのか。
その物語を「あなたを沈める淵」と「帰る場所」に注目して読み解いていきます。
暗示的な歌の世界に浸る
暗示的で想像を掻き立てる歌詞の世界も天野月子の魅力のひとつ。
「ウタカタ」においても歌詞の一部がカタカナで描かれており、独特な世界を感じさせます。
そしてそんな歌詞で描かれるのは切ない心境と美しい世界。
視覚的なイメージを描き出す「不知火」「光」などの言葉は美しい光景を伝えてくれます。
しかし、そこで描かれているわたしの想いは痛切なまでに悲しいもの。
その対比が壮絶で美しい世界を作り出しています。
言葉ひとつひとつにも注目しつつ、「ウタカタ」の暗示する物語に浸っていきましょう。
始まる世界と選ばなかった世界
明けていく空は晴れやかなはずなのに
白く明けてゆく空に浮かぶ不知火
陽気な夢に灯された赤い幻
出典: ウタカタ/作詞:天野月子 作曲:天野月子
静かな歌い出しでは、夜明けの風景が描かれます。
夜明けの光で白く照らされる空。
そこに浮かぶ「不知火」は海面に不思議な光が映る気象現象です。
海の上に燃えている炎のような不知火は、近づいても近寄れない不思議な存在。
赤く光るこの不知火を「赤い幻」と表現しています。
夜明けの風景を陽気な夢と例える、この情景は前向きで明るいもののように見えます。
けれど、近づいてもとらえられない不知火はかつては漁師たちに不吉ともいわれていました。
明るい世界に浮かぶ不知火。
確かに見えるのに近づけないそれこそが、わたしにとってのあなたの記憶なのです。
選ぶことができなかった今
選ビ損ネタモウ片方ハ
アナタガ笑ウ ヤワラカナ旅路
今コノ総テ置イテイッテモ
届カナイ夢ノ果テ
出典: ウタカタ/作詞:天野月子 作曲:天野月子
不知火に導かれるように想い起こす幻のような風景。
カタカナで描かれる歌詞が、ここにはない幻想であることを暗示します。
そこで描かれるのはわたしが選ばなかった、あなたと共にいる風景。
「箱舟」では共にいることが描かれたわたしとあなた。
しかし、わたしはどこかで決断を迫られることとなりました。
その選択肢のひとつは、今のわたしのように前へと進む道。
そしてもうひとつが、あなたとともにいる道だったのでしょう。
わたしはその中で前へと進む道を選びました。
だからこそ今のわたしがいる光景は明るいのです。
けれど、そこに大切なあなたはいない。
あなたがいる道には、もう全てを投げ捨てても届くことはありません。
自ら望んだにしろ、この道を選ぶしかなかったにしろ、あなたとともにいる世界は夢の果て。
どんなに苦しくても、もう共にいることはできないのです。
あなたを沈める淵とは
進む足はあてどもない
教えて
あてどもなく踏み出した足は何処へ続くの
出典: ウタカタ/作詞:天野月子 作曲:天野月子