天野月子時代の代表曲のひとつ
壮大な和の世界観を感じさせる一曲
「蝶」は天野月子名義で発表された7枚目のシングル曲です。
天野月子らしい個性的な世界観と強い感情を感じさせる歌詞。
そして和風のアレンジとストリングスで紡がれるサウンドは壮大で深く印象に残ります。
天野月子の魂のこもった歌声も心を震わせる、泣けるバラードナンバーです。
和風ホラーゲーム傑作の主題歌
この曲はテクモから発売された和風ホラーゲーム「零~紅い蝶~」の主題歌として制作されました。
元々シリーズの世界観に合うとして推薦された天野月子。
ゲームの主題歌を制作するにあたり、ストーリーの概要や設定が伝えられていました。
また、雰囲気を把握するために天野月子はシリーズ前作をプレイしてから制作に臨んだとのこと。
そのため「蝶」は「零~紅い蝶~」の内容と非常に深く寄り添った内容となっています。
双子の姉妹が闇に閉ざされた村で出会う恐怖。
その物語には恐怖だけでなく、大切な人を想う深く強い感情もこめられていました。
エンディングではこの「蝶」が流れ、多くのプレイヤーにとって忘れられないものとなったのです。
この記事では歌詞を解釈するにあたり、「零~紅い蝶~」の内容にも折々触れていきます。
未プレイの方にはネタバレになる可能性がありますのでご注意ください。
地下から君を想う
掘り進んだ穴が続く先
地下に潜り穴を掘り続けた
どこに続く穴かは知らずに
出典: 蝶/作詞:天野月子 作曲:天野月子
和楽器の印象的な音色と、壮大なストリングスで始まるイントロ。
そこから静かに「蝶」は歌い出されます。
閉ざされた地下で穴を掘り続けるわたし。
暗く抑圧されたイメージが伝わってきます。
穴を掘り続けるのは、今の場所から抜け出したいからなのでしょう。
おそらくは外や空の下、そういった幸せで明るい場所に続くと信じています。
ですが、その穴が本当に続く先をわたしは知りません。
その穴が続く先は恐怖や絶望なのかもしれないのです。
「零~紅い蝶~」にも深い穴が出てきます。
村の中にあるその穴は冥府に続くもの。
儀式によって封じなければ恐怖が溢れ出てしまう、絶対に見てはいけない穴なのです。
スコープが意味するもの
土に濡れたスコープを片手に
君の腕を探していた
出典: 蝶/作詞:天野月子 作曲:天野月子
スコープとは、望遠鏡や顕微鏡のように倍率を変えてものを見るための道具を指します。
どこにいるかわからない君を探すために手にしたスコープ。
遠く離れていても見つけ出したい想いが伝わってきます。
レンズを備えており、覗くことで相手を見るスコープはカメラも連想させるもの。
「零~紅い蝶~」では襲い来る霊を封じるために「射影機」と呼ばれるカメラで霊を撮ることができます。
これはゲームの重要な要素となっている一部分。
そうしたカメラで相手を覗き狙うイメージも掬い取って表現しています。
そのスコープで探すのは「君の腕」。
手をつなぎ共にいるために探しているのでしょう。
けれど身体の一部分だけを切り取る言葉の選び方は不安を感じさせます。
まるで君はばらばらになってしまって、腕だけがそこにあるような…。
そんな不穏なイメージが伝わってきます。
つぎはぎの幸せを抱きながら
つぎはぎの幸せを寄せ集め蒔きながら
君の強さに押し潰されてた
出典: 蝶/作詞:天野月子 作曲:天野月子
腕だけのイメージに続いてつぎはぎという言葉が出ています。
ばらばらになった身体を連想させる歌詞の選び方は、ホラーゲームの雰囲気をより盛り上げるもの。
それだけでなく、誰にでもある身体や心がばらばらになるような不安を伝えています。
大きな幸せではなく、小さな幸せを寄せ集めたような毎日。
自分の身体も感じる幸せもちぐはぐなものだと感じています。
それをつなぎ合わせながら幸せそうに振る舞う。
そんなわたしの姿が見えてきます。
そしてわたしのそばにいる君は強い人。
その強さに助けられながらも不安や重圧を感じずにいられない…。
そんなわたしと君の関係が見えてきます。
この想いは「零~紅い蝶~」で双子の妹に想いを寄せる姉「繭」の心情とも重なるもの。
続く部分とも合わせて、この歌詞は全体的に繭をイメージして作られているといえるでしょう。