社会人一年生の想い出
入社早々一目惚れ
お尻をフリフリ歩いてた
社長の秘書のグラマな娘
でっかいヒップが
目に浮かぶソラ
ズンズンズンズンズンズンドコ
ズンズンズンズンズンズンドコ
出典: ドリフのズンドコ節/作詞:不詳 作曲:不詳 補作詞:なかにし礼
高木ブーのパートです。
高校生・大学生ときて次は新入社員になっています。
主人公の人生は比較的に順調なのです。
ただし、特に女性からモテたというエピソードではないのが高木ブーらしいところ。
グラマラスな女性に一目惚れしますが、この恋は片想いであるようです。
新入社員が社長秘書と懇意になれるほど社会は甘くありません。
高木ブーは中央大学出身ですがサラリーマンにはならずに米軍相手にバンドで演奏します。
大学卒業後にすぐプロのミュージシャンになるのです。
まだ横浜市内に米軍基地があった時期でしょう。
サラリーマンの経験はないのですが、この箇所を歌います。
高木ブー自身、体型以外はあまりコメディアン向きではありません。
プロでギャラを稼ぐ本格的なミュージシャンでした。
パートはギターやバンジョーです。
このラインのサラリーマンの心情は分かりかねたかもしれませんが、当時すでに家庭を持つパパ。
恋愛経験はすでに積んだ後です。
グラマラスな女性の魅力に目が離せない男心を歌うのは自然体でできたことでしょう。
女性の魅力というものは奥が深いものです。
内面的な魅力こそが至高のものでしょうが、外面的・肉感的な美しさはいつの時代も男を魅了します。
生物学的に刷り込まれた本能からくるものでしょうから、この辺りの男の習性は大目に見て欲しいもの。
高木ブー自身は非常に控えめな性格です。
ザ・ドリフターズに誘われたときもいかりや長介にギャラの話を切り出すのに2時間掛かります。
男性的な魅力は不利でも、誰にでも愛されるキャラクターなのです。
荒井注は呑んだくれ
酔いどれサラリーマン時代の想い出
飲んでくだまきかみついて
つぶれた俺の耳もとで
体に毒よとささやいた
ノミ屋の娘が
いじらしい ソラ
ズンズンズンズンズンズンドコ
ズンズンズンズンズンズンドコ
出典: ドリフのズンドコ節/作詞:不詳 作曲:不詳 補作詞:なかにし礼
荒井注のパートです。
上述の通り、彼が脱退した後は志村けんが歌います。
しかし、このパートは飽くまでも荒井注に宛書きして創ったような趣があるのです。
「ウィスキーのトリスのCMのおじさんに似ている」
荒井注がいかりや長介にスカウトされた理由からしてアルコールが絡んできます。
可愛いかった高校生も今や飲み屋でくだを巻く酔いどれサラリーマンになってしまいました。
飲んでは絡み酒になるこの男は荒井注にしか歌えないキャラクターかもしれません。
荒井注はピアノ担当でしたが「ピアノが弾けないピアニスト」といかりや長介が紹介していました。
いかりや長介は荒井注のトリスのおじさん似のポイントばかりに注目していたのです。
オーディションのときにピアノを弾いてもらうことを忘れました。
コードを3つしか弾けないピアニストがザ・ドリフターズに参加します。
しかしこの歌詞に出てくるようなふてぶてしいキャラクターを演じると抜群です。
荒井注は大人の男性ファンが多かったコメディアン。
危険な男の香りもしてくるキャラクターです。
そのために飲み屋のちーママが耳元で囁く色気に惹かれる男を演じられるのは彼しかいません。
健康志向が進み、時代はこうした飲み方を許さなくなってきました。
昭和のサラリーマンあるあるのような風景に時代の変遷を感じます。
いかりや長介のくたびれた記憶
夫婦の倦怠期の想い出
やって来ました倦怠期(けんたいき)
不貞くされ女房は家出して
スイジセンタク ゴハンタキ
新婚当時を思い出す ソレ
ズンズンズンズンズンズンドコ
ズンズンズンズンズンズンドコ
出典: ドリフのズンドコ節/作詞:不詳 作曲:不詳 補作詞:なかにし礼
満を持してリーダーのいかりや長介のパートです。
くちびるオバケみたいな印象しかない若い人はベーシストであることを知らないでしょう。
いつの間にか結婚していて早くも倦怠期であると歌います。
いかりや長介自身は既に結婚していました。
また離婚も経験していたかもしれません。
実は補作詞のなかにし礼にも離婚・再婚歴があります。
経験者は語るだったのでしょうが、時系列の違いは多少あるはずです。
夫婦はふたりで固有の時間を生きます。
その時間の過ごし方が歳を重ねる度にズレてゆくのです。
倦怠期と呼ばれる時期は多くの夫婦に訪れます。
この時期を我慢して超えるか、嫌になってどちらかが逃げ出すかで人生が変わるでしょう。
主人公のパートナーは早々に出ていきました。
歌詞では家出といいますから離婚とは断言されていません。
いずれにせよ一人暮らしに戻った主人公はあらゆる家事を自分でこなします。
家事の最中に夫婦の仲が良かった新婚生活がフラッシュバックするのです。
新しい所帯を持ってこれからの未来を一緒に切り拓いていこうと誓いあった日々は過去のこと。
あの希望に満ちた頃に戻りたいとも願うでしょう。
威張るキャラクターを演じ続けたいかりや長介に惨めなオチが待っているのはドリフ・コントでも鉄板。
どんなパートナーと結婚したのかが肝心ですが、不思議なことにこの女性だけは魅力を語られません。
よく考えると酷いお話かもしれません。
「ドリフのズンドコ節」の哀しみ
全員で歌う追憶の日
汽車の窓から手をにぎり
送ってくれた人よりも
ホームのかげで泣いていた
可愛いあの子が忘らりよか
ズンズンズンズンズンズンドコ
ズンズンズンズンズンズンドコ
ズンズンズンズンズンズンドコ
ズンズンズンズンズンズンドコ
出典: ドリフのズンドコ節/作詞:不詳 作曲:不詳 補作詞:なかにし礼
クライマックスの歌詞です。
メンバー全員での歌唱に変わります。
この部分の解釈はとても大事でしょう。
まず1番の加藤茶のパートとの相関を考えます。
地方の高校を卒業して東京の大学に進学するために上京する場面に戻ったようです。
様々な声をかけてくれた人よりもプラットフォームの陰で泣いている女の子を思い出します。
この歌はすべて追憶で紡がれていますが、その中でも特別な女の子であるというのです。
男女問わず、この頃の恋愛の想い出は歳を経ても強烈なものでしょう。
様々な追憶の女性の中でも一番印象的なのはこの多感な時期に出会えた女の子。
そうした回想でこの「ドリフのズンドコ節」は円環を閉じます。
コミック・ソングでもありますが、一種の青春ソングでもあるのかもしれません。
一方でもうひとつ別の哀しい解釈も可能であります。
実はこの箇所は「海軍小唄」のオリジナル版の歌い出しそのままなのです。
この箇所以外はなかにし礼による新たな創作になります。
そうだとするとこの箇所は出征する海軍兵士の回想になるのです。
コミック・ソングはいきなり重いテーマに変わります。
「海軍小唄」とはいいますが普通の軍歌とは少し違うメンタリティを感じられるはずです。
海軍兵士の本音が透けてくるのが分かると思います。
「万歳」と勇ましく送り出してくれる人よりも泣いてくれる女の子のことが忘れられないのです。
ザ・ドリフターズの面々は戦中派ですから、この箇所の哀愁を身に沁みて感じていたでしょう。
戦時中としては女々しいと叱責されかねないメンタリティですが、密かな流行歌になりました。
特攻隊の兵士なども出陣の前日は泣いていたといわれます。
戦地に赴くものすべてが勇ましい日本兵だったというのはフィクションであることが分かるでしょう。