MVを可愛いだけで終わらせない要素のひとつが「手話」です。

サビでは歌詞に沿った手話が披露されています。

手話は「視覚言語」ですから、相手に伝わらなければ意味がありません。

彼女たちは手話を取り入れるにあたり、何を意識したのでしょうか。

MVから読み取ってみましょう。

手話とダンスの違い

手話もダンスも体を動かすことは共通しています。

では踊り慣れている彼女たちにとって手話が簡単なのかというと、そんなことはありません。

ダンスは体全体を使い、大きなモーションで相手にメッセージを伝えます。

またアイドルグループの場合は全員の動きがシンクロしていることも重要です。

一方手話の場合、文字通り「手」の動きのみで相手に思いを伝えます。

ダンスに比べるとかなり狭い範囲の動きで表現しなければなりません。

アイドルMVだから形になっていれば良いのでは?」という考え方もあるでしょう。

しかしそれは「手話ダンス」であり「手話」ではありません。

足の動きと連動させながら、完璧な手話で思いを表現すること。

響木アオが書いたこの曲の詞を、より多くの人に届けたいという彼女たちの意思を感じます。

なぜ「手話」なのか

響木アオ feat. たこやきレインボー「七色の風」MVを徹底解説!アオちゃんの表情に注目しよう!の画像

耳が聞こえない方にも歌詞の世界を感じてもらうために手話を取り入れた、というのが大きな理由でしょう。

しかしそれだけではないと考えます。

手話は「視覚言語」であり、目で見て理解するものです。

視覚に頼る表現、と考えるとYouTubeなどの動画も同じではないでしょうか。

もちろんYouTubeは聴覚と視覚で楽しむものですが、従来のCD音源との違いは「視覚」です。

たこやきレインボーのような現実のアイドルであれば聴覚だけでファンを魅了できます。

一方響木アオのようなバーチャル世界のアイドルは、視覚情報がなければ成り立ちません。

VTuberにとって視覚情報の発信はなくてはならないもの。

耳が聞こえない人にとって視覚言語の授受はなくてはならないもの。

「見える」ことの素晴らしさや「見る」ことの大切さが手話に込められているのではないでしょうか。

制服にも注目

響木アオ feat. たこやきレインボー「七色の風」MVを徹底解説!アオちゃんの表情に注目しよう!の画像

世界征服を企むアイドル。目の色は茶色、髪は黒のセミロング。
服装はピンクのリボンと服を身に着けたものと、耳が垂れ下がったウサギの頭部を模した帽子を被り赤い制服を着たものの2つがある。

出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/響木アオ

今回たこやきレインボーと響木アオの衣装は同じ赤〜えんじ色のトップスで揃えています。

一見、揃いの制服なのかなと思うのですが、実は形や装飾が全く違うのです。

響木アオは彼女のデフォルトともいえる制服を着ています。黒いスカートの白ラインは1本です。

たこやきレインボーは装飾がないカーディガンで、スカートは紺。白いラインは2本入っています。

リボンの大きさも形も違います。

MVを制作するにあたり、響木アオと同じ制服を作ることは可能だったはずです。

なぜ別の制服にしたのでしょうか。

彼女たちの関係は?

同級生の設定ではないことは確かですね。

ひとりで廊下を歩き、ドアから教室を覗き込むものの響木アオは5人に話しかけません。

喧嘩の仲裁にも入りませんし、一緒に階段を駆け上がることもありません。

ドラマパートにおいては、響木アオは存在しないものとされているように感じます。

バーチャルとリアルが違和感なく溶け込んでいるのに、関係性を持たせないのです。

響木アオだけがまるで別の時間軸を生きているような気さえします。

それを強く感じさせるシーンがラストにありました。

ピアノを囲むシーンの違和感

彼女たちの姿が消えてしまう直前、ピアノを囲むあのシーンです。

窓からの日差しによってたこやきレインボーの5人は白っぽく霞んでいます。

影の向きから考えると、教室の角の方に太陽があるのでしょう。

とすると、響木アオの姿が妙に明るく浮いて見えることに気付きます。

とくに足元の黒はピアノの脚の黒と同じ色とは思えないほどです。

そして歌が終わり、ピアノの後奏が始まります。

このときのたこやきレインボー5人の視線はどこに向いているでしょうか。

ピアノを弾く響木アオに向いているように見えるのですが、よく確認すると違うのです。

メンバー同士で顔を見合わせて笑っているだけで、響木アオを素通りしていることが分かります。

それぞれの道へ

たこやきレインボーと響木アオは、決して交わることのない存在です。

真の意味で心を通わせることはできません。

それはVTuberとしての宿命ではないでしょうか。

しかし双方ともアイドルであり、誰かを元気付ける存在である点は共通しています。

アイドルというパッケージングは同じでも中身は違う。意思疎通もできない。

これが制服の違いや素通りのシーンで表現されているのではないでしょうか。

今は 夢だけを
握りしめて歩いていこう
たとえ明日が 見えなくても
空を見上げて笑えばいい

君の 君だけの
色で輝くその日まで
信じること 忘れないで
七色の風になる

出典: 七色の風/作詞:響木アオ 作曲:響木アオ

彼女たちが唯一心をひとつにするのがサビのパートです。

なぜここだけ一緒に歌い、踊るのか。

それはこの歌詞に、彼女たち全員に共通する思いが込められているからなのです。

現実のアイドルは彼女たちなりの未来があります。

響木アオはVTuberとしての未来があります。

学校生活ではいつも一緒にいた仲間もいつかは別々の道に進むのです。

それぞれが別の色になり、未来に向かう仲間の背中を押す風になる。

これが曲のタイトル「七色の風」を表しているのでしょう。

明るいメッセージが込められているからこそ、響木アオの表情はずっと明るいのです。