ゆらゆら帝国とは
坂本慎太郎(ヴォーカル・ギター)、亀川千代(ベース)、柴田一郎 (ドラムス)から成る、1989年に結成された3人組ロックバンド「ゆらゆら帝国」。
90年代から2000年を過ぎたこのボーダーラインで、日本のロック界が大きく変貌を遂げたことを知っているでしょうか。
日本でもフェスが根付き始め、邦楽ロックに本格的な注目が集まりだした2000年前後の日本のロック界。
もっと新しい風はこないのか……、
そんな空気の漂うロックシーンに、独特の風貌と繊細な言葉、サイケデリックロックとしてセンセーショナルな風を巻き起こしたのが伝説のバンドゆらゆら帝国なのです。
その頃の邦楽ロックといえば、ブランキーやミッシェル、ナンバーガールが新風を巻き起こす中、ゆらゆらもまたインディーズだけにはおさまらない型破りな影響をロック界に与えたバンドのひとつといえるでしょう。
当時彼らの音源を聴いて「ヤラれた人」は多いかと思いますが、かくいう私もそのうちの一人です。
ギターポップやアノラック、メロコアやスカの渦中にいた時に、友人から渡された一本のカセットテープ「3×3×3」。
ライブに走りました(笑)
アフロなみのボリュームヘアーの坂本氏をはじめ個性的なメンバーに即効で心を奪われ、ピチピチのパンタロンをあんなにもカッコイイと思えたのはマイルスデイビスのLPジャケットを見て以来かもしれない。
とにかく、彼らの生の音と声を全身で浴びた時には、思わず心臓が口から飛び出そうなくらい度胆を抜かれました。
その後、時の流れと共にジャズやエレクトロ、ダブの波に泳ぎ始めたものの、アルタードステイツの音源がきっかけでまたゆらゆら帝国へと心が舞い戻ったのだから音楽がリンクさせる可能性は偉大だな、としみじみ思います。
「ゆらゆら帝国」、彼らの登場は日本のロックそのもののイメージがガラリと変わった瞬間でもあったのではないでしょうか。
ゆらゆら帝国の音源
「発行体」「ズックにロック」など当初聴いていたのは、どれも10代の若さを発散してくれるようなそんな気持ちのよいナンバーが多かったように思い出します。
ズンっと重く突き刺さるサウンドと坂本氏のセクシーな雄叫び、そしてメンバーそれぞれが醸し出す雰囲気は独特そのもので、他に類をみないロックバンドだと言う声が当初から多かったのも納得です。
ビジュアル的にも独特がゆえ、「何者だ!?」ととっつきにくかった人も多かったかとは思いますが、当時のナンバーは青春真っ只中の年頃にとって興味をそそり共感しやすい内容だったのではないかと思います。
ラストを飾った名盤『空洞です』
ロック界だけに留まらずあちこちで多大な影響を巻き起こした彼らですが、2010年約20年にも渡るバンド活動に終止符を打ちました。
とても残念ですが、2007年にリリースされたラストアルバム「空洞です」を聴き、彼らの到達点らしきものが見えたという声も多かったことから、ファンも唸るほどの作品となりました。
ヴォーカル・ギターの坂本慎太郎自身も、過去最高の完成度へと到達した旨を明かしていることから、ゆらゆら帝国の最後にふさわしいアルバムといえるでしょう。
では、名盤『空洞です』に収録されたラストナンバー「空洞です」を聴いてみて下さい。
アルバムに込められたテーマとは
このアルバムに込められたテーマを考えるとすればそれは……「無」ではないでしょうか。
彼らの歌には、このアルバムに限らずいつもどこか空虚感が漂っているように感じていました。
モヤモヤした不確かなものを、前向きに立ち向かうでもなく反骨的に毒を吐くわけでもなく、透明人間になってそこに立ってみているような……。
だからといって静かなわけではなく、並べられた言葉にものすごいエネルギーはある。
どうにもうまくいえませんが、自分の分身になって不確かなものを探っているような、そんなつかみどころのなさがありました。
だから、『「無」ではあるもののちゃんとその隣には「有」がある』、それが今回彼らがこのラストアルバムに込めたテーマだったのではないでしょうか。
収録曲一覧
1.おはようまだやろう
2.できない
3.あえて抵抗しない
4.やさしい動物
5.まだ生きている
6.なんとなく夢を (Album Version)
7.美しい (Album Version)
8.学校へ行ってきます
9.ひとりぼっちの人工衛星
10.空洞です
出典: 空洞です/ゆらゆら帝国
これらのタイトルをみてもわかるように、ゆらゆら帝国の曲目らしい躁鬱のようなアップダウンが今回もみえてきます。
しかし今回のアルバムの曲には、激しさや前のめりに問いただす波のような様子があまりなく、いつもの”不確かさ”に手を伸ばしながらも肩すかしというか空振りそのものを淡々と続けているような感じがしました。
そんな空虚感はもしかしたら紆余曲折の経験を経たそこそこの年だからこそ共感できるものなのか、若い年齢層には少し浸透しにくかったという声も。
ガンガンに前向きだったり反骨精神むき出しの音楽とは少し違っていて、言葉ひとつひとつがとても文学的で繊細な彼らの音楽。
年を重ねるごとに響きかたが変わってくるのも大きな魅力といえるので、ぜひいろいろなナンバーを年月をかけて味わって頂きたいですね。