不朽の名作「さよならなんて云えないよ」
一級の名曲にはこぼれ話がいっぱい
1995年11月8日発表、小沢健二の通算10作目のソロ・シングル「さよならなんて云えないよ」。
人生の幸せな瞬間とやがてくる別れの予感を交錯させた歌詞が見事で格別な評価がされています。
「渋谷系の王子様」時代ではありますがクオリティが抜群に高いところが彼の楽曲の特徴です。
タモリが感動しただのあの曲のあの箇所にそっくりだの何かとこぼれ話が多い曲でもあります。
こちらのサイトで伝えられるこぼれ話は記事の中でしっかりとご紹介しましょう。
多くの人の記憶に残る不朽の名作です。
忘れ難いメロディと言葉たち。
キラキラ輝く想い出。
ちょっと切ない思いもする歌詞を紐解いてこの歌の永遠の魅力に迫ります。
長く濃い歌詞ですので早速実際のラインに触れてみましょう。
「君」の姿を目に焼き尽くす
結婚式が行われた教会の坂道
青い空が輝く 太陽と海のあいだ
“オッケーよ"なんて強がりばかりの君を見ているよ
サクソフォーンの 響く教会通りの坂降りながら
出典: さよならなんて云えないよ/作詞:小沢健二 作曲:小沢健二
目の醒めるような自然世界の青さのもとで「僕」と「君」とが坂道を降りてゆきます。
楽器が響いている教会。
つまり結婚式が行われている日の教会通りの姿が描かれます。
この結婚式に彼らが参加したのかはまだ明確には分かりません。
「君」は大丈夫と「僕」に伝えます。
何が大丈夫なのかも明らかにされません。
口癖のように「僕」に伝えてくる言葉。
その言葉の真意はもう少し歌詞を追っていくと朧気に見えてきます。
先を見てみましょう。
後に「美しさ」と改題される
結婚式の幸せの余韻
美しさ oh baby ポケットの中で魔法をかけて
心から oh baby 優しさだけが溢れてくるね
くだらないことばっかみんな喋りあい
嫌になるほど続く教会通りの坂降りて行く
出典: さよならなんて云えないよ/作詞:小沢健二 作曲:小沢健二
この曲「さよならなんて云えないよ」は後に渋谷毅と川端民生いうジャズマンたちと再演されます。
その際にタイトルは「美しさ」と改題されました。
ジャズ・ピアノとウッド・ベースによる伴奏が素晴らしいです。
シングル「ある光」のカップリングで登場します。
機会があればぜひ聴いてみてください。
改題された「美しさ」はこのラインの冒頭に登場するワードです。
「さよならなんて云えないよ」の全体像を理解するためにとても重要なワードになります。
このラインで判明するのは「君」と「僕」だけでなく「みんな」で坂道を降りていること。
「みんな」一緒にいるというのはおそらく結婚式に参加した帰り道でしょう。
この辺りの事情が明示されてはいない辺りが小沢健二の歌詞の巧さです。
幸せな新郎新婦を見て「みんな」の気持ちも盛り上がったその余韻を噛み締めながら坂道を降りる。
幸福のお裾分けに預かりながらテンションが高くなっている「みんな」の姿が鮮やかです。
青春の群像劇のような趣がある歌詞だと気付かされます。
安心して眠る猫
「僕」の心に忍び寄る不安
日なたで眠る猫が 背中丸めて並ぶよ
“オッケーよ"なんて強がりばかりを僕も言いながら
本当は思ってる 心にいつか安らぐ時は来るか?と
出典: さよならなんて云えないよ/作詞:小沢健二 作曲:小沢健二
眠る猫はこの日の平穏さを象徴します。
「君」が連呼していた大丈夫という想いを「僕」も思わず口にするのです。
しかしそれは飽くまでも強気でいることの表現なのだと「僕」はいいます。
まだ本当の平穏さは「僕」には訪れていないと自覚しているのです。
これほど素晴らしい日でもまだ心のどこかで不穏さや不安定さを感じている。
安心して眠る猫と「僕」の本当の心境とのコントラストが見事です。
小沢健二はラインごとに発想が湧いて細々と歌詞を書いたものを繋げてゆくタイプだとか。
全体像だけでなくラインごとに解析することの醍醐味が小沢健二の歌詞にはあります。
「アルペジオ -きっと魔法のトンネルの先」でいわれるように神は細部に宿るのです。