ゆらゆら帝国とサイケな10曲と
そんな彼らのメジャーシーンでの活躍の中から10曲だけを選ぶという無謀な企画にお付き合いください。
1989年から東京のアンダーグラウンドシーンでライブ活動を始めたゆらゆら帝国。
1998年に発表した「3×3×3」以降、音源のリリース、及びライブやフェスでの活躍でファンを広げます。
日本のメジャー音楽シーンでサイケデリック・ロックを鳴らしてこれほどまでに成功したバンドはわずか。
彼らの活動履歴は約20年に渡ります。
しかしゆらゆら帝国の音楽は日々大きく成長して変わり続けてゆくものでもありました。
今回は彼らが残した楽曲の中から10曲しか選べません。
願うことはこの記事を読んでいただいて皆さんなりのTOP10を編んでいただくことです。
解散後のメンバーも順調に活躍しているいまこそゆらゆら帝国の歴史をもう一度振り返りましょう。
それではランキングの10位からご覧ください。
10位 「わかってほしい」
ノイジーなイントロに狂喜乱舞
1998年4月15日発表、「わかってほしい」。
メジャー・デビュー・アルバム「3×3×3」のオープニングを飾る楽曲です。
アルバム冒頭からノイジーなファズ・ギターと太いベース、そして確かなドラムが大音量を鳴らします。
3人のメンバーによるそれぞれのパワーがまさにかけ合わされる一瞬です。
その後、呆気なく気怠くルーズな印象のボーカルとクランチ・トーンのカッティングが響きます。
日本のロック・ファンの誰もが狂喜した歴史的な瞬間がパッケージングされているのです。
デビュー前後のゆらゆら帝国は「3×3×3」の曲順とおりにライブをしていました。
つまりライブでも冒頭の楽曲は「わかってほしい」だったのです。
メジャー・デビュー直前にはゆらゆら帝国と灰野敬二の2マンライブで160名程度の動員でした。
しかしメジャー・デビュー後の観客動員数はそれこそかけ算のように増えていったのです。
多くの人にとってこの曲こそゆらゆら帝国との最初の出会いだったでしょう。
妥協を一切しないで音作りというものにこだわり続けたのが彼らの歴史の骨に当たる部分です。
音作りの要となるプロデューサーは東京のサイケデリック・ロックの雄である石原洋。
WHITE HEAVENというこれまた素晴らしいサイケロック・バンドのフロントマンでした。
坂本慎太郎が紡ぐ楽曲を魔法のように形に変えた功労者で、ほぼ全作品に関わり続けます。
わかってもらえたのだからすごい
雲が太陽をかくした
雨が彼女を湿らせた
俺達何も変わらない だけど
どうしておまえは泣くんだ?
○か×の夢
○か×の今日
○か×の明日
○でも×でもないもの
わかってほしい わかってほしい
わかってほしい
出典: わかってほしい/作詞:坂本慎太郎 作曲:ゆらゆら帝国
印象的な歌い出しの歌詞から抜粋いたしました。
曖昧なものや答えの出ないものをあなたに提示したいというゆらゆら帝国の心意気が示されます。
この曲が最初の挨拶であったことは偶然ではないのです。
サイケデリック・ロックの定義は難しいものでしょう。
それこそアレだコレだとは決めつけられません。
そのどっちでもないところに答えはあるのだけれどというのがゆらゆら帝国とサイケデリックの真髄です。
また坂本慎太郎というアーティストが非常に詩才にあふれた稀有な存在であることも印象付けました。
わからないことをわかってもらえたのがすごい。
この曲のセンセーショナルな在り方をまとめるとこんな感じになるでしょうか。
ランキングの10位としてより、まずこの曲に触れて欲しいと願ってこの曲を推します。
9位 「ズックにロック」
忙しないビートから見えてくるものは
1999年4月21日発表、ゆらゆら帝国の通算2作目のシングル「ズックにロック」。
直後の名作アルバムである「ミーのカー」では2曲目に収められています。
堂々と息が長いロックサウンドを響かせたと思ったら忙しないビートへ移行するのです。
ガレージロックともいうべきそのサウンドは1960年代のUSシーンからトリップしたよう。
しかし坂本慎太郎による意味深な歌詞が日本語のロックとしての伝統にも立っていることを確信させます。
ルーツが様々に遡れる印象と唯一無二の声で歌われる性質などが綯い交ぜ(ないまぜ)になっているのです。
様々な色が混濁していて形容不可能な極彩色のガレージサイケが花開きました。
デビュー・アルバムの楽曲群からも足早に成長を遂げていることが伝わってきます。
どうしてこうなるのかな
あの娘は口でバナナむいて
食べたらすぐ唾をはいて
消えちまったよすぐに
消えちまったよどこかへ
俺は小さな星を
目の中の黒い星を
無くしちゃったよなぜか
無くしちゃったよなぜだか
だめだ 俺はもうだめだ 俺はもうだめだ
だめだ 俺はもうだめだ 俺はもうだめだ
出典: ズックにロック/作詞:坂本慎太郎 作曲:ゆらゆら帝国
クライマックスの歌詞です。
俄に状況は掴めませんし坂本慎太郎は簡単な同意を求めるために歌詞を書く人ではないでしょう。
俺なりの深刻なトラブルに見舞われていても助けてくれという響きはありません。
もう駄目になったよ仕方がないだろうという幾分投げやりな思いが伝わってきます。
俺が欲しいのは同情でもなくて、むしろこんな駄目な状況を笑い飛ばして欲しいという気持ちです。
理解されるために分かりやすい歌詞を書くアーティストに慣れてしまうとこの味は伝わりません。
しかし坂本慎太郎だって難しいことは何も書いていませんし、やさしい言葉で表現します。
ただ、歌詞におけるリスナーとの関わり方が他のアーティストとは違うのです。
リスナーは俺を眺めることしかできません。
しかしその分だけゆらゆら帝国にハマると彼らがカルト的な存在に思えてきます。
この曲の発表前後からライブシーンにゆらゆら帝国のフォロワーが雨後の筍のように誕生しました。
いかにゆらゆら帝国に人を揺り動かす力があったのかを思い知らされます。