NAT KING COLEはタイトルソング「L-O-V-E」を含むアルバム「L-O-V-E」を発表後すぐ、45歳でこの世を去ります。
患っていた肺がんが原因でした。
このアルバム「L-O-V-E」が彼の遺作になってしまったのです。
家族のためのレコーディング
のちに、コールの愛娘でありシンガーソングライターのナタリー・コールはこう綴っています。
「父は、残していく家族の生活を保障するためにあのレコーディングを行ったの」と。
このストーリーを聴くと、歌詞の意味が、違って見えるのではないでしょうか。
愛は、家族に与えられるすべて
愛は、ただの駆け引きとは違う、もっとすばらしいもの
愛し合う家族となら、それが実現できるんだ
どうか、僕の残したものを受け取って
愛は、僕と大切な家族のためのものなんだ
「L-O-V-E」の歌詞は、このように、家族の愛にも置き換えることができるのです。
コールは自分自身の思いをこの曲にのせて、家族にメッセージを伝えたのでしょう。
家族への愛を重ねることができたからこそ、苦しい闘病生活の間も歌い続けることができたのかもしれません。
「L-O-V-E」と分解した意味
ところで、一体どうして「LOVE」という単語を「L-O-V-E」に分解し、アイウエオ作文のように作詞したのでしょう。
「LOVE」という言葉を繰り返し歌詞にのせるほうが、よりダイレクトでわかりやすい気もします。
けれども、この曲に込められている愛は、恋愛だけではなく、家族の愛や人間愛などさまざまな愛です。
「LOVE」という単語そのものを聴くと、つい恋愛に結びついてしまいそうなところ。
あえて分解することで、言葉の抽象さが増し、聴き手はそれぞれの愛を想像することができるようになるのです。
また、アルファベットの羅列になった途端、例えば「ABC」のように、「L-O-V-E」が普遍的な言葉に感じられます。
そもそも、愛は普遍的なものです。
もちろん、愛するもの同士のみの特別な出来事であり、その人に注ぐ特別な感情です。
けれども、愛する心は、誰もが持てる感情であり、愛は、どんな人たちとの間にも生まれ得るものです。
「L-O-V-E」というふうに分解することで、そのことがより強調されるのです。
世界各国の言葉で歌われた「L-O-V-E」
6ヶ国語バージョンの制作
NAT KING COLEがこの世を去ったというニュースは、アメリカには止まらず世界を震わせます。
コールを尊敬してやまなかった美空ひばりさんは、すぐに追悼の歌を贈ります。
そして美空ひばりさんが歌ったのが、日本語バージョンでつくられた「L-O-V-E」でした。
実はコールは、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、日本語の6ヶ国語バージョンを制作。
この曲が世界に広く届くようにと願いを込め、セルフカバーをしていました。
日本語バージョンの「L-O-V-E」
Lと書いたらLook at me
Oと続けてOkay
Vはやさしい文字Very good
Eと結べば愛の字L・O・V・E
Loveは世界の言葉
Loveは二人の宝
愛しあえば明日も明るい
Love , Love You Love I Love You
出典: L-O-V-E/作詞:Milt Gabler 訳詞:漣 健児 作曲:Bert Kaempfert
見事な日本語で歌い上げられています。
この時、日本語の作詞を担当したのは、日本語訳詞のレジェンドともいえる漣健児(さざなみけんじ)さん。
シンコーミュージックの元代表で、400曲以上日本語化している岩谷時子さんと並ぶ名訳詞家です。
本来の歌詞とは異なる英単語を組み込みながら、絶妙な日本語訳をしています。
英語の直訳では、愛する男女の二人をモチーフに歌っている曲にも思える「L-O-V-E」。
けれども、この漣さんの日本語訳を見ると、恋愛だけに限らず様々な愛に当てはまることがわかります。
NAT KING COLE自身のストーリーを漣さんが知っていたかどうかは、わかりません。
ただ、この曲が、広く温かく、はかりしれない愛を歌っている曲だと、漣さんにはわかっていたのでしょう。
これがもう一つの「L-O-V-E」の歌詞です。
最後に
コールが「L-O-V-E」に乗せた思い
作詞をしたミルトゲイブラーは、NAT KING COLEの人生を重ねて歌詞を書いたわけではないでしょう。
けれども、その歌詞にあるように、愛はゲームや駆け引きではありません。
誰かに与え、そしてすべてを受け止められる愛の素晴らしさが、この歌詞には込められています。
他人には知り得ない、互いへの思いを失い取り戻した、夫婦の愛。
この世界では別れたとしても永遠に幸せに生きて欲しいと願う、家族の愛。
日々を慈しみ、差を超えてつながりを求めもがく、人間愛。
NAT KING COLEが音楽を通じて世界に伝えたかった、特別で普遍の愛が託されているのではないでしょうか。