中盤からは地元福島のグラフィティシーンを紹介するくだりに。
橋の下、繁華街、路地裏を無数に埋め尽くすアートワーク。
MU-TON自身が身につける「chitto brand」デザイナーのATOMONE氏のものが多数見られます。
作者不明のマリア像...。MVには映らないものには津波をモチーフにしただろうものも...。
Banksyの登場で芸術か犯罪かの境界線が曖昧になったグラフィティ・アート。
ハッキリ分かるのはその土地にまつわること、震災のようなものは表現者にも影響を与えるだろうことです。
MU-TONのライミングにも注目
知ったふりは許さない
JPN ピースだがダークもシリアス
奏でる旋律乗せるドレミファー
メディアに映らぬリアルを意に介す
街の声を音に変えるジニアス
目を覚ました 眠れぬ獅子は
人目避け 1,2磨いたオリジナル
このStatikビーツ鳴り終わる前に
俺の事知ってるとか言わせないよ
出典: Spin Me Around/作詞:MU-TON 作曲:Statik Selektah
「Spin Me Around」とは「振り向かしてやるよ」という意味です。
つまりMU-TONにとっての挨拶代わり。
自分のラップを耳にすれば他のWack(ダサい)なヤツはもう聴けないよ、という宣戦布告です。
MCバトルで名を挙げたことに関しても自ら「売名」のためだったと語っていました。
実は戦略家でもあるMU-TON。
スマホ1つで世界と繋がれる時代、東京に出て音楽をやるという考え方は頭にないのかもしれません。
地方を拠点に活動するアーティストはきっと気持ちが分かることでしょう。
フリースタイルで皆を驚かせたメロディアスなフローにも更に磨きがかかっています
歌うようにラップをするのがMU-TONのスタイルです。
歌詞にも「音」に関するワードが多く出てきます。
そして「この作品を聴くまでMU-TONを知ってると思うな」というメッセージ。
十二分に効果的な宣戦布告として機能しています。
辛口な風刺と郷土愛
ちっぽけなアイランド病んだジパング
その枠から飛び出たGrooveはnigga
Keep it real,trust me 一二三 Check it out
握るTrigger連れて行くシャングリア
レンズに映るだけでインスタ映え
このスタイルとボイスについた高値
JPN 日の丸 UTM掲げ
落とすBOMB ビーツ鳴らせ
出典: Spin Me Around/作詞:MU-TON 作曲:Statik Selektah
ステレオタイプな型にはまらないのもMU-TONの魅力なのでしょう。
郷土愛を語る一方で辛口な風刺も盛り込んできます。
病的にSNSにはまる日本人、口喧嘩の延長のようなMCバトル。
日本の現状を揶揄しつつも白河・小峰など福島の地名を世界に届けようとしているのでしょう。
流行には乗らないスタンスはサウンドに現れています。
ブーンバップと呼ばれる90年代的なサウンドと言葉選び。
初期ライムスターの代表曲「耳ヲ貸スベキ」の衝撃が蘇るようです。
実際に他の楽曲にはライムスターやブッダブランドからの引用も目立ちます。
誠実に音楽と向き合う
このビート鳴る度に腕が鳴る
メタファー 革命起こしたゲバラ
Spin Me Around時代の波に逆らう
抗うことで水を得た魚
リリックはダイアリー 音になる歌詞
握るMIC 身から出た錆
ビーツにおめかし 声という楽器
ボイスという波 チョイスしたClassic
出典: Spin Me Around/作詞:MU-TON 作曲:Statik Selektah
会津地方の男性は頑固で辛抱強い性格をしているといわれています。
もちろん全ての方に当てはまるわけではありませんが...。
しかしMU-TONの実直な歌詞を見ると福島県民の気質を感じずにいられません。
この歌詞に出てくるように常にペンとノートを持ち歩きリリックを書いているそうです。
アルバム収録曲「Dreamin'」のMVで実際にそのような描写が描かれています。
また「Spin Me Around」の歌詞に頻繁に登場する音楽に関する単語。
例え意味が伝わらなくてもメロディーだけでも好きになってほしいというストレートな気持ちの表れです。
歴史に残るクラシックを残したい...
誘惑Boom Bap ふりむかし 耳を奪う
首振らす 罪深きBoy
普通じゃないGrooveスタイル漂わし
ただ酔わす アウトキャスト
アンダーグラウンド 光求めもがき合う
かぶってた猫 剥がして虎になる
上げろ雄叫び 煙が宙に舞う
滝を昇る鯉が今龍になる
出典: Spin Me Around/作詞:MU-TON 作曲:Statik Selektah
アルバム「RIPCREAM」の楽曲内には90年代へのメタファーも散りばめられています。
本作にUSのStatik Selektahが参加した経緯は不明です。
DJ Premier、Dr.Dre、J.Dilla、Pete Rock...。
90年代に多くのHIP HOPクラシックを作り上げたビートメイカーたちです。
彼らの影響を強く受けたStatik Selektahを起用したことにMU-TONの方向性が垣間見えます。
形式だけの90年代回帰ではなく歴史に残る音楽を残すことが彼の目的なのです。