平均的な日常

それなりの生活と それなりの愛情で
安っぽいビールの味が 1日を染めてゆく

出典: 秋、香る/作詞:山本響 作曲:Maki

日常が垣間見える一節ですね。

生活していく上で過不足無く、人々とは平均的な愛情を交わす。

「ビール」は平均的な生活の象徴でしょう。

毎日が特に何もなく過ぎてゆく様が表現されていますね。

作者の心の叫び

どこまで歌えば 静かなところへ行ける?
指の隙間から 落ちる砂を見る

出典: 秋、香る/作詞:山本響 作曲:Maki

様々な解釈が可能ですが、筆者の解釈では、山本の叫びのように感じます

彼らは今まで人前で演奏していく中で、応援と共に様々な意見、批判を聴いてきているはずです。

そんな他人からの「ノイズ」から解放される為、自分達はどれ程の高みに行けば良いのだろうか。

他人の意見に振り回されることなく、自分が歌いたいことを歌いたい

そんな彼らのパンキッシュな部分が、文学的に表れていますね。

手から零れる砂からは、砂時計が連想できます。

自分が活動する上でのタイムリミットは、こうしている内にも刻々と過ぎていってしまう。

自分達が奏でられる時間は意外と少ないと、言い聞かせているかのようです。

自分の葛藤をこの部分に当てはめてみると、歌詞を私達に投影することが出来そうですね。

秋と「君」が香る夕焼け

秋の匂いがした 時は無情にも過ぎていく
君の匂いがまた 街中を赤に染めた

出典: 秋、香る/作詞:山本響 作曲:Maki

場面が秋の初めであることが分かる歌詞です。

主人公にとっては、秋の訪れと「君」の残り香がリンクするのでしょう。

過去形で紡がれるこの場面から、「君」とはもうしばらく会っていないことが分かります。

また、秋は別れを連想させる季節でもありますよね。

主人公と「君」が、何かをきっかけにした別れを経験していることが想像できます。

赤い街という表現からは日暮れをイメージさせ、空気の澄んだ秋口の夕焼けが描写として浮かびます。

行間を感じさせる「悲しさ」

16インチの あの画面の奥で
安っぽい男の言葉 理想を並べてる
悲しくなっていた

出典: 秋、香る/作詞:山本響 作曲:Maki

1行目が表しているのはテレビであるのが分かります。

男が語る理想というものが、主人公には詭弁に思えたのでしょう。

ここもベースヴォーカル山本の感情がそのまま反映されている部分であると考えられます。

薄っぺらい理想論では世界は何も変わらないし、ましてや人生は動かない。

そんな事実に悲しくなったのか、そういった詭弁を語る人間を哀れに思ったのか。

敢えて具体的な感情の機微を示さないことで、その矛先や深さの設定を聴き手に任せています。

山本が書く歌詞にはそういった表現含め、行間を感じさせるものが多いです。

聴き手の性格や幸福度、精神状態によって微妙に違う顔を見せてくれます。

それも業界内外での評価が高い要因の1つでしょう。

一握の砂はタイムリミットか

どこまで歌えば 静かなところへ行ける?
握りしめていた 一握りの砂

出典: 秋、香る/作詞:山本響 作曲:Maki

1コーラス目と違う2行目。

筆者の解釈のまま考察すると、手に残った砂は、彼らが自身で決定した制限時間と考えられます。

この時間内には、自分達は自由に歌える高みにたどり着く。

そんな決意を歌詞に込めているように感じます。

この解釈を適用すると、主人公=山本自身ということになります。

そうであれば、サビでの「君」の存在。

これが概念であれ、実在の人物であれ、山本の心情の具現化、または実体験であると言えますね。