過去を懐かしむ気持ち…
戦後の街並み
雨に濡れてる 焼け跡の
名もない花も 振り仰ぐ
出典: 青い山脈/作詞:西條八十 作曲:服部良一
ここに登場するのは、空襲などによって焼かれた街並みです。
東京や横浜など、主要都市は大きな空襲によって大部分が焼かれてしまいました。
広島や長崎などの街並みは、皆さんもご存知の通りです。
無法地帯のような光景の中に、希望を感じることができた。
その象徴が「花」ではないでしょうか。
何もなかった街の中。
ものは何もないけれど、希望だけはあった。
それを具体的に「花」として登場させているわけです。
名前がないというところがまた味わい深いですね。
名前さえなかった花たちが、後に日本を再興していったのですから。
そして、そんな花が仰ぎ見たのはなんだったのでしょうか。
故郷との離別
青い山脈 輝く峰の
懐かしさ
見れば涙がまたにじむ
出典: 青い山脈/作詞:西條八十 作曲:服部良一
戦後の日本に咲いた花たちが仰ぎ見たのは「青い山脈」でした。
上では、漠然と「希望」が具象化したものだと書きました。
この部分の歌詞には「迷い」がみて取れます。
それは新しく前進することに当たっての、迷い、不安、葛藤です。
古いものを捨て、新しい人生を切り開いていこうとしていたのが1番2番でした。
しかし、故郷を懐かしむ気持ちは捨てきれなかったのです。
どうしたって、今の自分は過去の自分の延長線上にあるわけですから。
過去で未来が決まるというわけではありませんが、過去という前提を捨てることはできません。
「山脈」という希望は、古い時代を乗り越えてきたことに気づいたのです。
ここで流した涙は、決して故郷が恋しくなって流した涙ではないと思います。
この涙は、過去を受け入れた上で未来へ進もうという決意があるのではないでしょうか。
この曲は何がいいたかったのか?!
人生の果て
父も夢見た 母も見た
旅路のはての その涯の
出典: 青い山脈/作詞:西條八十 作曲:服部良一
この曲は、何を言わんとしているのか。
「青い山脈」の意味に、遂に迫ります。
この曲が終始追い求めているものは、両親も求めていたものらしいのです。
そしてそれは、人生の果てにある。
涯とは、行き着く先のことを指しています。
そこには何があるのでしょうか?
根拠のない希望
青い山脈 みどりの谷へ
旅をゆく
若いわれらに 鐘がなる
出典: 青い山脈/作詞:西條八十 作曲:服部良一
両親も、そして自分も見ている遠方の山脈。
それは、人生の目的ということができると思うのです。
生きる理由、すなわち希望。
この曲で用いられている表現は、どれも希望にあふれています。
「青い山脈」とは旅路の先にあるものです。
すなわち、生きる希望という漠然としたものの象徴だと思うのです。
戦後当時の人たちが旅路の先に見た希望。
そこに根拠はなかったのかもしれません。
ただ、なんとなく「希望だけ」があったのではないでしょうか。
これは非常に現代と対照的です。
満ち足りた「物」に囲まれて、漠然とした不安だけが募る。
この曲は、若者の響く歌声に始まります。
そして最後は、若者への鐘の音に終わります。
始まり、若さ、希望、青さ、初々しさと爽やかな表現のオンパレードであるこの曲。
我々の胸を打つのは、我々の足りないものをこの曲が補ってくれるからかもしれませんね。
終わりに
いかがでしたでしょうか。
この曲が幅広い世代に歌い継がれる所以をご理解いただけたでしょうか。
この曲は実際にたくさんのアーティストにカバーされています。
美空ひばりさんや、石川さゆりさん、最近だと桑田佳祐さんなどです。
有名な戦争を題材にした漫画に、「はだしのゲン」があります。
その中にもこの曲は登場していました。
生徒たちが「君が代」を歌うのをやめ、勝手にこの曲を歌い出すのです。
大人への反抗や、自由の叫びといったものの象徴は、まさにこの曲だと思います。
この曲ができてから、長い年月が過ぎました。
整備された町に住み、物にも不足しない世の中です。
しかし、この曲にあるエネルギーに我々は圧倒されます。
それは、我々に足りないものがこの曲に詰まっているからかもしれませんね。