MVの冒頭、アスファルトに落ちたひと粒のさくらんぼが目にとまります。

そしてハイヒールで歩いてくるほのかりんの髪とリップの色は赤(ボルドーですね)。

2粒で1つというイメージがあるさくらんぼと、さくらんぼを模した色合いで1人歩くほのかりん。

片割れを失った女性を表現しているのでしょうか。

そしてMVの途中、ガード下を走る車を見送るほのかりんは、冒頭の彼女と違っているように見えます。

髪の色は金色に、そして輪郭が強いボルドーのリップはナチュラルなカラーに変化。

都会の背の高いビル群から、天井が低く狭いガード下に場所を移したのも変化です。

これは、表向きの自分と裏の自分、人間の多面性を表しているように感じます。

印象が異なるリリックMV

リリックMVはその名の通り、映像に歌詞をシンクロさせたMVです。

歌詞の表示は線が弱々しい手書き風の文字と、強い明朝体が頻繁に入れ替わります。

両者の使い分けに明確なルールがあるとは言い切れません。

しかし確実に、とあるフレーズは明朝体で大きくはっきりと映し出されています。

これについては歌詞を読み解きながらご紹介しましょう。

「東京」という街に重なるものとは

「東京」の歌詞には人の脆さやズルさがはっきりと描かれています。

人間が持つ多面性の良し悪しを改めて考えさせられる歌詞といえるでしょう。

東京が持つ孤独

「帰ってきたら教えてね、東京で待ってるから。」
そんな安っぽい言葉で 繋ぎ止めようとした

「そんな風に下を向いて、悲しそうに笑うなよ。」
煩いな、気付いちゃう所が ずるいよ ずるいよ
強がりばっかが、得意だったのよ

出典: 東京/作詞:ほのかりん 作曲:ほのかりん

彼氏、彼女の関係性を前提としている曲のようです。

彼は、何らかの理由があって現在の所在地である東京を離れるのでしょう。

「帰ってきたら」という歌詞から、期間に定めのある出張のように感じます。

しかし、恋人同士の関係で「帰ってきたら教えて」なんて言うでしょうか。

わざわざ「東京で待つ」なんて、言うでしょうか。

ひとつの仮設としては、彼が「友だちの家に泊まりに行く」などと見え透いた嘘をついたケース。

彼女は、彼がこれから知らない女との関係性を深めに行くという「確信」を持っているように見えます。

なにか証拠を握っているのかもしれません。それでも、彼との関係を壊したくないのです。

「東京」は地名ですが、彼女自身を表しているのではないかと推測しました。

人と人との関わりが希薄なのに人ばかり多い孤独な街こそが東京です。

「東京で待つ」とは、自分は誰のものにもならずに独りで待つ、という意味にとらえることができます。

冒頭のセリフを彼は軽く受け止めたようですが、私が読み取った真意はまるで呪い

「東京に戻ったら必ず声をかけてくれないと許さない」

下を向いているから悲しそうに見えるだけで、実際は真顔かもしれません

しかし「強がりな彼女」というスタンダードな理解しかできない彼。

それなりに恋愛に長けている男性といった印象です。

素直さもまた暴力

「帰ってきたら教えてね、東京で落ち合いましょう。」
「寂しかったわ」なんて言葉を軽く言ってみたの
あからさまに下を向いて赤くなった貴方に
騙されてもいいと思ったの 好きだよ 好きだよ
知らない匂いの貴方でも

出典: 東京/作詞:ほのかりん 作曲:ほのかりん

強がりだと思っていた彼女から聞こえた意外な言葉「寂しかった」。

恋愛上級者の彼にとってはパワーワードだったのでしょう。彼の素の部分が垣間見えました。

彼女はパワーワードとして発したわけではありません。なんとなく、試しに言ってみたようなもの。

その結果、彼の中に残る純粋さを知ることになったのです。

それと同時に、素直な感情表現が持つ破壊力を実感しました。

自分の言葉に照れてくれる彼が愛おしく、好意がどんどん膨れ上がっていきます。

しかし、自分の元に戻ってきた彼からは、彼の匂いではない、ましてや自分の匂いでもない香りがします。

実際に匂いとして感じたのか、それとも第六感なのかは分かりませんが、女の勘は鋭いのです。

普通ならそこで「誰に逢ってたのよ!」とバトルが始まりますが、彼女は黙っています。

それどころか、彼の手のひらで踊り続けようとさえ考えます。とにかく別れたくないようです。

東京が持つ強さ

ねぇ、傷だらけになっても愛しててあげるから
最後に戻ってくるのは私の所にして
ゴミ箱の中の嘘見つけてごめんね
でも泣いたりしないで抱き締めてみせるわ、ダメかな、ダメよね。

出典: 東京/作詞:ほのかりん 作曲:ほのかりん

ここで「傷だらけ」になるのは、彼ではなく彼女でしょうか。

何度でも裏切っていいし傷つけていい、どんなに痛い思いをしても絶対に嫌いにならないからと訴えます。

彼の恋愛において「ベースキャンプ」のような存在でありたいようです。

自ら望んで「都合のいい女」になろうとしています。

彼が別の女に手を出した証拠を見つけてしまった彼女。

それを見つけた自分が悪いとでもいうように謝罪を口にしました。ゴミ箱を漁ったのでしょうか。

裏切りを知っても、何も知らない顔で彼を受け入れる。自分ならそれができる、とアピールするような言い回し。

一見控えめに感じる彼女の言動ですが、愛して「あげる」、抱きしめて「みせる」と言いました。

そして遠慮なくゴミ箱を漁り、悪びれない言葉だけの謝罪。彼女はおそらく、強い女なのでしょう。

東京は孤独な街ですが、昼夜を問わず人を受け入れ、疲れを知らない強さがあります。

「ダメかな」と弱気な発言、最後は諦めたように締めくくります。しかしリリックビデオにご注目

この歌詞だけは必ず明朝体ではっきりと、映像の前面に強く押し出されるのです。

「寂しかった」のひと言で動揺した彼は、「ダメかな」の弱々しい声にも絆されるかもしれません。

それを期待した彼女が、女性としての弱さをアピールしているように感じます。

都合のいい女でいい

「帰ってきたら教えてね、東京で待ってるから。」
そんな安っぽい言葉じゃ もう駄目かな
「そんな風に下を向いて、悲しそうに笑うなよ。」
行かないで「知らない匂いは 嫌だよ 嫌だよ」
言葉に出来たら、変われたの?

出典: 東京/作詞:ほのかりん 作曲:ほのかりん