もしも僕たちがとうに
長い眠りにいるとしたら?
魂をそっとしまっていた器が空だったなら?
誰も気付いてくれないの?
孤独に凍えている迷い子
クラスに椅子がなくたって
いつもここで待ってるよ
出典: デッドボーイ、デッドガール/作詞:Yunomi 作曲:Yunomi
すでに「デッドガール=死者」となってしまったりなはむ。
学校という空間に居場所を見出せなかった残酷な現実が歌詞から読み取ることができます。
学園生活が暗喩するのは同調圧力で支配された社会集団です。
学校からドロップアウトした彼女を待っていたのは「部屋」という孤独な空間。
元々りなはむは異端の地下アイドルとして業界から無視されていた頃のBiSに所属していました。
方向性の違いからBiSを飛び出しさらに地下深くまで活動の場を求めていったりなはむ。
孤独な「部屋」での「死」が表現するのは彼女が体験したアイドルとしての挫折なのではないでしょうか?
「死」からの再生
とんだ災難だね
包帯だらけの腕
飲み込んだ言葉さえなんの味もない
誰も気付いてくれないの?
ただ照らすオペ室のライト
残された日々がタイトなら飛び出してやろう
出典: デッドボーイ、デッドガール/作詞:Yunomi 作曲:Yunomi
やみいがりなはむの袖をまくります。
そこに見えるのは数々の自傷行為の代償としての痛々しい包帯です。
過酷な現実に耐え切れず「死」を選択してしまったのでしょう。
ベッドに横たわるりなはむはすでに魂の抜け落ちた空っぽの人形なのです。
白装束の少女たちは彼女の魂を迎えにきた、黄泉からの使者。
過去を振り切ったりなはむは理想のアイドル像を求めた末にICIGO STYLEを立ち上げます。
BPM15Qとして活動を始動、後にCY8ERとして新しい仲間と共に生まれ変わったのです。
『デッドボーイ、デッドガール』はそんな彼女の過去と未来を象徴しています。
「死」からの「生まれ変わり」、そして「破壊」と「再生」。
それこそが『デッドボーイ、デッドガール』に隠された真のテーマだったのです。
白装束と狐の面
真冬の深夜、渋谷を占拠したサバイ族
来いよ、今宵また夢を見よう
こっちの水は甘いぞ
遠く聞こえるか
パレードが君を迎えにくる
出典: デッドボーイ、デッドガール/作詞:Yunomi 作曲:Yunomi
もう1つの重要な舞台装置が「真夜中の渋谷の路上」です。
CY8ERのメンバーを筆頭に100人近くの白装束の集団が渋谷をパレードするMV。
このシーンの撮影が行われたのは2019年2月2日の深夜から翌朝未明まででした。
前日に急遽SNSを通じて呼びかけられたサバイ族。
参加条件は18歳以上であること、全身白の衣裳で来れる人です。
そしてライブカメラにも収められてしまったスクランブル交差点のパレード。
時刻は午前4時!すでに丑三つ時も過ぎている中撮影は行われたのです。
お稲荷様と盆踊り
さぁ行くよ、手の鳴る方へ
長い夜の谷間に声が聞こえる
子供たちが君を迎えにくる
出典: デッドボーイ、デッドガール/作詞:Yunomi 作曲:Yunomi
白装束と狐のお面で連想するのはお稲荷様です。
稲荷大明神は気高く美しい白い姿をしていると伝えられています。
本来は五穀豊穣や商売繁盛の神様として知られているお稲荷様。
『デッドボーイ、デッドガール』では黄泉からの使者が狐の姿を借りて現れたということでしょう。
そして随所に挿入されるサイケデリックなCG。
そこに重ねられる和楽器のサンプリング音と「イーヤッサッサッ」の文字。
これは古くから日本各地に伝わる祝祭の儀、盆踊りを暗喩しているのでしょう。
死者を供養し黄泉の国に送り返すための儀式としての『デッドボーイ、デッドガール』。
劇中、ポチ丸に手を引かれたりなはむは光り輝く世界を見ます。
再び闇夜に戻った世界でりなはむは白装束のパレードと出会います。
『かごめかごめ』から目覚める苺りなはむ
かごめ かごめ
かごのなかのとりは
いついつでやる
よあけのばんに
つるとかめとすべった
うしろのしょうめんだーれ
出典: かごめかごめ/作詞:わらべうた 作曲:わらべうた
MVの終盤、「部屋」の中でメンバーがりなはむを取り囲みます。
手を繋ぎ歌いながら周囲を回る少女たち。
この光景はやはり日本古来から伝わる童歌の『かごめかごめ』です。
意味深な歌詞、各地で異なる伝承から現代では死後の世界へのリンクとして少女たちに受け継がれています。
楽しそうに歌い踊るメンバーと対照的に恐怖に怯えるりなはむ。
しかしラストシーンで目をパッチリと見開き目覚めた表情には何かを振り切った爽快感が漂っています。
多くの苦難を乗り越え令和元年にはかつてない大舞台に立つCY8ER。
臨死体験という通過儀礼を通して過去の自身を成仏させるための葬送曲。
それが『デッドボーイ、デッドガール』だったのです。