今はいとこが 住んでる家に
昔みたいに 灯りがともる

出典: 吾亦紅/作詞:ちあき哲也 作曲:杉本眞人

この楽曲の悲しみと切なさを背負う2行の歌詞です。

独りでお墓参りのために故郷に戻った歌の主人公。

戻る場所はあっても戻る家は無いようです。

本来なら実家のはずの家で暮らしているのは「いとこ」。

日が暮れて夕飯の支度をする頃でしょうか、「灯り」とその香りも感じられる歌詞です。

歌の主人公は訪れることはしないのでしょう。

以前は自分が住んでいた家ですが、たとえ親族が住んでいてもそれはもう人の家

まっとうな人生なら、この家を親族に渡すことも無かったのでしょうか。

窓から漏れる光に背を向けて歌の主人公は来た道を戻ります。

弱くはなかった

すぎもとまさと【吾亦紅】歌詞の意味を解説!母はどんな人だった?自分を生きるという言葉の重みを読むの画像

あなたは あなたは 家族も遠く
気強く寂しさを 堪えた
あなたの あなたの 見せない疵(きず)が
身に沁みて行く やっと手が届くよ
ばか野郎と なじってくれよ

出典: 吾亦紅/作詞:ちあき哲也 作曲:杉本眞人

ここでまた他人を思うような言葉で呼びかける言葉に変わりました。

先程の歌詞に「母」という言葉は出てきましたが、お母さんやおふくろとはここでも呼びません。

ひとつの屋根の下に暮らしている時から、どこか距離があったのでしょうか。

「遠く」という言葉がこのような使われ方をするのが切ないですね。

親子であれば優しい一面もあったはずです。

せわしなく心休まる時間の少ない、嫁という立場を常に強いられたのでしょう。

言い返すこともなく黙々と働くしかなかった姿がよみがえります。

それは弱いのではなく強い信念があったから出来たことと。

自分には無い強さで生き抜いたことをやっと受け入れたのです。

駄目な自分を叱って欲しいけれどもうそれは叶いません。

母親の声も顔も遠いものになってしまったのでしょうか。

歌の主人公の生き様を

最後の優しさ

すぎもとまさと【吾亦紅】歌詞の意味を解説!母はどんな人だった?自分を生きるという言葉の重みを読むの画像

親のことなど 気遣う暇に
後で恥じない 自分を生きろ
あなたの あなたの 形見の言葉
守れた試しさえ ないけど

出典: 吾亦紅/作詞:ちあき哲也 作曲:杉本眞人

歌詞は歌の主人公の人生を綴ります。

現状では誇れることはなく、褒められることも無いのでしょう。

亡き母から言われたことは、押し付けるのではなく「気遣い」に満ちています

親の顔を見に帰るよりも、今住んでいる所で幸せに暮らして欲しい。

悔いのない人生を自らの力で切り開いて欲しかったのでしょう。

最後に言われた約束さえ果たせない人生

軽い口調で親不孝と置き換えることもできないのです。

決別から始める

すぎもとまさと【吾亦紅】歌詞の意味を解説!母はどんな人だった?自分を生きるという言葉の重みを読むの画像

あなたに あなたに 威張ってみたい
来月で俺 離婚するんだよ
そう はじめて 自分を生きる

出典: 吾亦紅/作詞:ちあき哲也 作曲:杉本眞人

歌詞は最後に向けて歌の主人公の決意を綴ります。

決めたことを実行すれば、少しは最後の約束を果たすことになるのでしょうか。

でもその決意はあまりにも切ないものなのです。

歌の主人公が決めたのは「離婚」という重いもの。

歌の主人公の人生の辛さと悲しさがこの2文字に凝縮されています。

パートナーと別れてリスタートすることで、人生を変えたいのでしょう。

それは歌の主人公にとって、人生で初めて見せる強さなのかもしれません。

縛られていることから自ら抜け出すことで自分を認めて欲しかった。

そして、ここでの「離婚」は2つの場面を描いているようにも思えます。

1つは歌の主人公が「来月」実行すること。

もう1つは亡くなった母が、心の中だけで考えていたのかもしれないという想像です。

だからこれを決断すれば「威張る」につなかるのでしょう。

独りで生きることを決めた歌の主人公。その寂しさを埋めたくてまた呼びかけるのです。

いつまでも呼びかける

すぎもとまさと【吾亦紅】歌詞の意味を解説!母はどんな人だった?自分を生きるという言葉の重みを読むの画像

あなたに あなたに 見ていて欲しい
俺に白髪が 混じり始めても
俺 死ぬまで あなたの子供

出典: 吾亦紅/作詞:ちあき哲也 作曲:杉本眞人

ここでも母さんやおふくろとは呼びかけません。最後まで「あなたに」なのです。

最後までこの呼びかけになっているのも、楽曲の切なさポイントになっていますね。

誰にも使えるような呼び方をしていても、歌詞には母親を思う言葉が溢れています。

自分の髪に「白髪」が見える頃はもう人生も後半といえるでしょう。

本当なら自分が誰かを守らなければいけない年代ですね。

でもその年齢になっても見守ってと、呼びかけるのです。

自分の決めた人生を、やっと見せられるという安堵もあるのでしょうか。

歌詞の最後の1行にあるのは、かつてそんな平穏な日々を与えてくれた感謝です。

それを今になって、口にしようとしている歌の主人公。

生涯「子供」でいたい、それはあなたという強い存在を忘れないことなのでしょう。

最後に