幼い頃の思い出
ママのくつで 速く走れなかった
泣かない 裸足になった日も
出典: Swallowtail Butterfly~あいのうた~/作詞:岩井俊二・Chara・小林武史 作曲:小林武史
ここで歌われているのは、グリコではなくてアゲハの幼かった頃なのではないでしょうか。
彼女の頭に浮かぶのは、なぜか優しかった母親の姿ではありません。
アゲハの死んでしまった母親は、娼婦をしながら彼女を育てていたのです。
彼女にとって幼い頃の思い出は、楽しいことばかりではなかったのでしょう。
映画の中でアゲハの回想シーンに、そう思わせる描写があります。
たった2行の歌詞が回想シーンと重なっていて、曲の中でもここが間奏に繋がるポイントになっています。
少女アゲハを演じた伊藤歩の佇まいと、奔放なグリコを演じたChara。
このキャスティングが絶妙で、映画の成功の鍵はここにあったのだと思います。
年齢も性格もまったく違う2人の女性が物語のキーになっているのです。
彼女の心に響く歌
辛い現実は忘れられる?
逆さに見てた地図さえ もう 捨ててしまった
心に 心に 魔法があるの
嵐に翼ひろげ 飛ぶよ
私はうわの空で あなたのことを想い出したの
そしてあいのうたが 響きだして…
私はあいのうたで あなたを探しはじめる
出典: Swallowtail Butterfly~あいのうた~/作詞:岩井俊二・Chara・小林武史 作曲:小林武史
最初の歌詞の意味は、どういうことなのでしょう。
誰かが広げて夢を語っていた地図を、向かい側から見ていたのでしょうか。
一緒に見ていた人は、もういなくなってしまったのかもしれません。
ひとりで見る地図など意味はないので、もう必要ないのでしょう。
嵐に例えた辛い現実を忘れさせてくれる魔法があればと願う彼女は、孤独なのだと思います。
空を飛べたら、自由になれたらと誰もが一度は考えたことがあるはずです。
ここでもう一度“うわの空”という言葉が出てきます。
辛い現実を認めたくないという気持ちが、そこに表れているのでしょう。
“あいのうた”は、もう一度彼女を救ってくれるのでしょうか。
しかし下の段の歌詞に続くのは、受け入れ難い現実でした。
映画の中でグリコの恋人は警察に逮捕され、厳しい尋問の末に命を落としてしまうのです。
切り離せない映画と歌詞
“イェンタウン”は近未来の日本だった?
この曲はタイトルを知らなくても映画を見たことがなくても、一度でも聴けばいい曲だと分かります。
だけど映画を見て“イェンタウン”の世界を楽しむことができたら、もっとこの曲が好きになるでしょう。
歌詞の世界を紐解いてみると、映画とは切っても切り離せないことがよく分かります。
映画の内容をそのまま歌詞にしたわけではありませんが、渾然一体となったところがあるのです。
「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」の歌詞は、映画に深く関わった3人が共作しました。
主役を演じたCharaと音楽を担当した小林武史、そして監督の岩井俊二。
それぞれに思い入れや、創作のプロとして譲れない部分があったはすです。
より良い作品を作ろうとする意志の結晶が、この曲であり映画なのだと思います。
グリコとアゲハの物語は、もしかしたら近未来の日本で始まるのかもしれません。
『スワロウテイル』が公開されたのは、1996年のことです。
混沌とした異国のような世界を構築した岩井俊二のセンスは、未来を先取りしているかのようでした。
その世界観を彩るのがCharaとYEN TOWN BANDの音楽なのです。
曲を聴いて映画を見て、もう一度曲を聴いてみる。
そうすると映像と音楽が一体となって不思議な魅力を放ち、いつまでも心に残るだろうと思います。
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「タイムマシーン」Chara
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まずはCharaの「タイムマシーン」の記事から。
幸せそうにはしゃぐ彼女と浅野忠信が出演したPVが印象的でした。
歌詞の解説や2人の馴れ初めなど興味深い内容です。
【タイムマシーン/Chara】PVには浅野忠信が登場?!独特の切ない表現が魅力の歌詞の意味を考える - 音楽メディアOTOKAKE(オトカケ)
1997年にリリースされたCharaの名曲「タイムマシーン」。この曲のPVでは、カメラを構える浅野忠信の前ではしゃぐCharaの貴重な映像が収録されています。また、独自の表現が魅力の歌詞にもせまります。