手紙が心に灯をともす
安奈 寒くはないかい
おまえを包むコートはないけど
この手で暖めてあげたい
安奈 クリスマス・キャンドルの灯は ゆれているかい
安奈 おまえの愛の灯は まだ燃えているかい
出典: 安奈/作詞:甲斐よしひろ 作曲:甲斐よしひろ
彼の心の中には、彼女と過ごした幸せな日々が蘇ってきたようです。
助けを求める彼女を、優しく慰めてあげたいという気持が溢れています。
“暖めてあげたい”のは寒さに冷え切った体ではなく、淋しさに震える心なのでしょう。
もう一度灯がついた自分の心で、凍えた心を溶かしてあげたい。
手紙に書いてあった一言が、彼の心に再び灯をともしたのです。
それでも彼には、まだ不安があるのではないでしょうか。
本当に彼女は自分のことをまだ愛しているのだろうか。
自分を待っていてくれるのだろうか…。
サビの歌詞が繰り返されるのは、期待と不安がせめぎ合っているからかもしれません。
ここでも女性コーラスが甲斐よしひろのボーカルと共に優しく彼を後押しします。
ウェットな恋愛
切ない物語に必要なもの
二人で泣いた夜を 覚えているかい
わかち合った夢も 虹のように消えたけど
出典: 安奈/作詞:甲斐よしひろ 作曲:甲斐よしひろ
普通は女の子が泣くものだと思うのですが、甲斐よしひろが描く恋愛はもう少しウェットです。
どちらが切り出したのかは分かりませんが、別れ話をした夜に二人は泣いたのでしょう。
彼女を“おまえ”と呼んでいた彼も、涙を堪えることができなかったのです。
恋愛で泣く男性ってどうなの?
そんな意見もあるでしょう。
しかし弱さと優しさを持つ彼が主人公だからこそ、切ない物語が成立するのだと思います。
二人で叶えるはずだった夢は、雨上がりの空を彩る虹のようなものでした。
ほんのわずかな時間だけ、七色に輝いた夢は消えてしまったのです。
彼女の元へ帰る決心をした彼は、新しい夢を描くことができるのでしょうか。
クリスマス・ツリーは幸せの象徴
二人は笑顔になれる?
おまえのもとに今 帰ろうとして
今夜 俺は旅を始める
クリスマス・ツリーに灯りがともり
みんなの笑い声が聞える頃
出典: 安奈/作詞:甲斐よしひろ 作曲:甲斐よしひろ
一人で過ごすクリスマスほど淋しいものはありません。
失恋したばかりなら尚更ですが、彼の救いは手紙から希望が生まれたことです。
クリスマス・ツリーは幸せの象徴で、それがどんなに小さくて質素なものであってもいいのです。
明かりの灯った窓から笑い声が聞こえてくれば、一人ならば淋しく感じるでしょう。
だけど誰かが自分を待っていてくれる場所へ戻る途中であれば、笑い声につられて幸せな気分になるはずです。
彼女の元へと帰る主人公の心には、希望の灯りがともっています。
行くあてのない傷心の一人旅ほど、虚しく悲しいものはありません。
しかし、旅の終着点には彼女が待っていて幸せが見えています。
それでも、やはり彼はどこかに不安を抱えているような気がします。
“淋しい”の一言の裏には、彼女が手紙を書くまでに抱えていた色々な想いがあるのではないでしょうか。
その想いをすべて受け止めてあげることができるのかは、会ってみなければ分からないでしょう。
二人にもう一度幸せは訪れるのでしょうか。
待っていてほしい…!
もう一度愛の灯はともる?
安奈 おまえに会いたい
燃えつきたろうそくに
もう一度 二人だけの愛の灯をともしたい
安奈 クリスマス・キャンドルの灯は ゆれているかい
安奈 おまえの愛の灯は まだ燃えているかい
出典: 安奈/作詞:甲斐よしひろ 作曲:甲斐よしひろ
ここで「安奈」と彼女の名前を呼ぶのが、この曲で最も切なく盛り上がるところです。
彼女の元へ帰る旅についた彼の心は、焦がれるような想いで満たされています。
心の底にあった不安よりも、早く会いたい気持ちのほうが強くなっているのです。
揺らめく灯は、不安定で頼りない絆のようにも思えます。
いずれは燃え尽きてしまうろうそくのように、最初の恋は終わってしまいました。
空に架かっていた虹が夢の象徴ならば、ろうそくは二人の恋の象徴です。
彼の願いは、彼女がクリスマス・キャンドルの灯を見つめながら彼の帰りを待っていることなのでしょう。
彼女の心の中に、自分を想う気持が燃えていてほしいのです。
最後にもう一度繰り返すサビには、どうか自分を待っていてほしいと願う切ない気持ちが表れています。
まだハッピーエンドは訪れていないまま、「安奈」はエンディングを迎えるのです。