“熱さと切なさ”が魅力の甲斐バンド
少しハスキーな甲斐よしひろのボーカル
甲斐バンド初期の名曲「バス通り」や「裏切りの街角」には、フォークソングのような味わいがありました。
少しハスキーな甲斐よしひろのボーカルが、これらの曲にぴったりフィットしていたのです。
彼の声はシャウトすれば格好良く、哀愁漂う曲では切なく響きます。
熱さと切なさ、その両方を兼ね備えているところが甲斐バンドの魅力です。
その熱さを代表する曲「HERO(ヒーローになる時、それは今)」で、彼らの知名度は飛躍的に上がりました。
さらに切なさを代表する曲「安奈」で、甲斐バンドは押しも押されぬトップバンドになったのです。
孤独に寄り添う女性コーラス
オープニングはネガティブ?
安奈 おまえの愛の灯は まだ燃えているかい
寒い夜だった 苛く悲しい
一人きりの長い夜だった
北へ向かう夜汽車は
俺の中の心のようにすすり泣いてた
出典: 安奈/作詞:甲斐よしひろ 作曲:甲斐よしひろ
この曲は、それまでの甲斐バンドの曲と少し違うところがありました。
甲斐よしひろのボーカル抜きで、女性コーラスで始まるのです。
初めて聴いた時は少し戸惑いましたが、仮にこれがなかったとしたらどういう感じになるでしょう。
最初の歌詞には悲しい男の心情が切々と綴られています。
ポジティブな言葉は、そこにはありません。
しかしその前に柔らかく暖かいコーラスを入れることで、救いがあるように思わせてくれます。
女性コーラスが孤独な彼に寄り添い、そっと背中を押しているようにも感じるのです。
今では聞かなくなった“夜汽車”という言葉が、とても懐かしく響きます。
元カノから届いた手紙
よりを戻したい?
そんな時おまえがよこした便り
ただ一言だけ“淋しい”って綴ってた
安奈 クリスマス・キャンドルの灯は ゆれているかい
安奈 おまえの愛の灯は まだ燃えているかい
出典: 安奈/作詞:甲斐よしひろ 作曲:甲斐よしひろ
元カノからのスマホの通知を開いてみたら、“淋しい”とだけ書いてあった…。
いったい彼はどんな気持になるのでしょうか。
“寂しい”よりも“淋しい”のほうが、より泣きたいような悲しい心が伝わるように思います。
昔は当然手紙ですから、郵便受けに届いた手紙を見つけて封を切る間にもドキドキしたでしょう。
“おまえ”と呼んでいますから、彼が彼女をリードしていたのでしょうか。
ひょっとして、よりを戻したいのだろうか?
そう思うのが当然でしょうね。
彼女がどんなクリスマスを迎えようとしているのか、彼は心配になってきます。
誰かと二人でいるかもしれないと思っていた彼女から、SOSが届いているのです。
問いかけるように“~いるかい”と結んだ言葉には、自分を待っていてほしいという願いも表れています。
“おまえ”は強がりだった?
もっと勇気を出していれば…
眠れぬ夜を いくつも数えた
おまえのことを 忘れはしなかった
それでも一人で 生きてゆこうと
のばせばとどく愛を こわがってた
出典: 安奈/作詞:甲斐よしひろ 作曲:甲斐よしひろ
別れた後も、彼は彼女のことを忘れられなかったようです。
彼女のことを幸せにする自信がなかったのでしょうか。
“おまえ”という言葉は、男らしい彼のキャラクターを想像させてくれます。
だけどそんな彼も一人になれば、彼女と同じように淋しさに身を切られるような思いをしているのです。
最後の行の歌詞には、もっと勇気を出していれば別れることはなかったのにという後悔が表れています。
“おまえ”という呼び方は、彼の強がりだったのかもしれません。