いつも2人だけの時間を感じたくて
手帳にそっとはさんだ写真はあなたばかりを集めていた
友達に混じってはしゃぐ姿 私だけのものならいいのに
出典: 誰より好きなのに/作詞:古内東子 作曲:古内東子
楽曲がリリースされた1996年は、今と比較すると写真を撮る機会は格段に少なかったでしょう。
撮った写真はプリントアウトをして保存するのが普通だった時代です。
「あなた」が写っている写真はとても貴重なもの。
それを普段から持ち歩く「手帳」にはさんで独りで見ているのですね。
写真を見ている間はあなたと一緒にいるような気持になれるのでしょう。
あなただけが写っているのではなく、仲間も一緒に写っている写真。
あなただけの写真を持ち歩かないのは、周りには恋を知られたくないからでしょう。
こんなことを思わせる歌詞も古内東子さんならではですね。
仲間の中ではじけるような笑顔をあなたは見せています。
普段はあまり見せない表情から私は目が離せません。
この笑顔を「私だけ」に見せて欲しい。
恋する女子の独占欲を、歌詞はオブラートに包んだ秘め事にして描いています。
話すことが見つからなければ
どうしてもあなたの声を聞きたくなると
受話器片手に理由考えて
途切れる会話の中にこの気持ち気付いてよ
どうかお願い
出典: 誰より好きなのに/作詞:古内東子 作曲:古内東子
ガラケーさえも一般的ではなかった時代、連絡手段は家電です。
会えなかった日にせめて「声」だけでも聞きたくなったら、電話をしないといけないのです。
ひたすらあなたを求めて電話をかけるけれど、実際には何を話していいか分からない。
電話をした方より、受話器の向こうにいる相手に何か話して欲しいと思ってしまうのでしょうか。
続かない会話に気まずくなる2人。でもそんなときにこそ言って欲しいことがあるのです。
ただ一言「好き」とあなたから言ってくれれば電話を切ることができるのでしょう。
「どうか」までつけてしまう「お願い事」で恋は重くなるばかり。
でもそれがこの歌詞の中で恋をする主人公の望んでいる恋なのですね。
心で思っていることと反対の言葉はここで封印をします。
私はあなたをに思いを届け続けたいのです。
側にいるのは私だけ…
もう離れない…
伝えたいことは たったひとつ
ずっと想ってる あなただけを
いつも見てる いちばん近くで
出典: 誰より好きなのに/作詞:古内東子 作曲:古内東子
胸が張り裂けてしまうくらいにあなたが好き。
その気持ちが途切れることはないのです。
そしてここで再び出てきた2人の距離。
ここでは「近い」場所にいることを譲らないという決意さえ感じることができます。
恋に必要な緊張やときめきが得られないことが不満でもあり不安にもなっていました。
ここでは自分に言い聞かせるようにあなたへの思いを取り戻します。
このままこの恋に素直になれることはできるのでしょうか。
この後は最後のフレーズに恋の行方を託します。
すべてが好きだから
やさしくされると切なくなる
冷たくされると泣きたくなる
誰より好きなのに
出典: 誰より好きなのに/作詞:古内東子 作曲:古内東子
恋に一途な女子の心は簡単に覆ることは無いようです。
最後も印象的なフレーズを繰り返します。
素直に相手の気持ちを受け取ればいいのに…と思ってしまいますね。
それでも最後に伝える言葉はもう決まっているのでしょう。
反対の思いをぶつけるのは愛を確かめるため。
すねたような涙を見せるのはあなたを信じているから出来ることでしょう。
あなた以外にはいないのです、私の心をこんなにもかき乱すのは。
ただあなたを好きなのです。
最後に
『誰より好きなのに』の歌詞にある恋は「重い」の一言でまとめることもできます。
素直になれないのに独りで写真を見ている、用も無いのに電話をする。
簡単にメッセージが送れる時代にはそぐわない行動かもしれません。
それでもこの楽曲は聴き継がれています。
恋する女子の心の動きに時代は関係ないのでしょう。
歌詞に描かれたのは、心の奥にある言いたくても口にできない本音。
古内東子さんはそれをラブバラードにしました。
好きな人が常に心の中にいる。苦しくてもその中にいる自分は誰より幸せなのです。