久しぶり 前に言ったよな? エンドロールで席を立つなよって
でも皆 予想外 まだ座ってやがる お待たせ 暇人ども さぁいこうか
出典: Happy Meal/作詞:PUNPEE 作曲:DJ MAYAKU
このバースでPUNPEEはタブレット端末での映画視聴に慣れてしまった人々に対して警鐘を鳴らしています。
彼の考える映画体験とはオープニングからエンドロール終了まで含めたものです。
作品によってはエンドロール終了後に真のエンディングシーンが流されることもあります。
映画好きのPUNPEEはそういった趣旨のことを楽曲を通して投げかけているのです。
ちなみに1行目の問いかけは彼がPSGでのライブの際に発言したことを指しています。
そして早くも『Happy Meal』の重要なテーマの1つが登場しているのにお気づきでしょうか?
キーワードは“ヒマ”です。
シリアスな詞の世界
食の安全から「2001年宇宙の旅」まで
時代はあれもこれもみんな 先に決めつけてさ 想像するやつも このままじゃ豚箱行きさ
俺らはもう手遅れ 添加物にまみれ でも防腐剤 Childは腐りにくい
だって最初に夕日に魅せられた暇な猿が進化し俺らが始まった
出典: Happy Meal/作詞:PUNPEE 作曲:DJ MAYAKU
ここで『Happy Meal』は1度目のクライマックスを迎えます。
この、たった4行の歌詞の中にPUNPEEはシリアスな暗喩を凝縮しているのです。
1行目で暗示されるのは“共謀罪”。
2行目は米国で深刻な問題となっている“食の安全”について語っています。
そして映画好きならすぐに引っかかるのが3行目です。
明らかに「2001年宇宙の旅」のオープニングシーンを描写しています。
モノリスの啓示により文明を手にした猿は姿を人に、手にした木の棒を核兵器へと進化させるシーンです。
ここで興味深いのはPUNPEEが独自の解釈を与えている点でしょう。
猿は確かにモノリス=神の啓示を受けたのかもしれません。
しかし沈みゆく夕陽を美しいと思う感受性があるからこそ進化したのだと考えたのです。
“ヒマ”と“オルタナティヴ”
トニーホークに続け ESPN マカロニ カーチェイス 押入れの冒険よ続け
出典: Happy Meal/作詞:PUNPEE 作曲:DJ MAYAKU
美しい光景を受け入れる感受性はどこから来たのでしょう?
その鍵は“ヒマ”にあるとPUNPEEは考えたのでしょう。
日本語ラップのパイオニアであるスチャダラパーもかつて“ヒマ”の重要性について言及しています。
時間的余裕を持つことでPUNPEEは自身の脳内に様々な物語を蓄積していったのです。
これは後述する“オルタナティヴな価値観”とも相通じます。
ある時は「荒野の用心棒」のようなマカロニ・ウエスタンの血沸き肉躍る光景。
またある時はハリウッド全盛期のカーチェイス映画のスリリングな体験。
これらの物語性をPUNPEEは自身のラップに内包させていったのです。
余談ですがトニー・ホークは伝説スケートボーダー、ESPNは米国のスポーツ専門局を指します。
スケーターとしても知られる彼の実弟5lack(スラック)の影響でしょう。
マコーレー・カルキンとオルタナティヴ
別に大昔でもない ちょっと前に 屋根裏に溢れてたこんなストーリー
マコーレンなら家に篭り過ぎ ホームアローンの後ジャンキー
オルタナは海を越え 東京へShipping 輸入版のInkかいで俺もTrippinʼ
出典: Happy Meal/作詞:PUNPEE 作曲:DJ MAYAKU
テクノロジーの進化により私たちのライフスタイルは大きく変化しました。
より利便性を追及する人類が求めるのは更なる効率化です。
“ヒマ”という概念が内包する反社会性は時代とともに増していきます。
それは同時にPUNPEEの提唱するオルタナティブ(もう1つの)な価値観の増強も意味します。
音楽さえ圧縮データとして端末で持ち歩ける時代。
彼は海を渡ってやって来たアナログレコードへの愛情を深めていくのです。
3行目の歌詞だけでもこれだけの情報量が詰まっています。
さらに全体を覆うのは1990年の映画「ホームアローン」へのオマージュです。
主演のマコーレー・カルキンはキュートな子役俳優として名を馳せました。
しかしその後数々のトラブルを経て米国オルタナ・シーンへと繋がっていったのです。
マコーレーはパンクバンドのSONIC YOUTHの1999年の楽曲『Sunday』のMV出演でカムバック。
そのMVを監督したのは映画「KIDS」で知られるハーモニー・コリンです。
幼少時に見たディストピアが現実に?
ジョニー・ネモニック カードはトレーディン ストンピィデッキ
ニキビ面みてる トロマムービー
お前がこの世界の仕組みを
深く知れば知るほど バカでいることはもう出来なくなるけど
出典: Happy Meal/作詞:PUNPEE 作曲:DJ MAYAKU
ジョニー・ネモニックは1995年公開の「JM」というSF映画の主人公の名前です。
演じるのは若き日のキアヌ・リーヴス、そして共演者は北野武。
PUNPEEがこの、80年代サイバーパンク小説を元にした映画について言及する意味は深いです。
なぜなら現代の世界はウィリアム・ギブスンが原作で描いたディストピア社会に追随しようとしています。
2行目に登場するトロマ社とはやはり80年代に隆盛を極めたB級映画製作会社です。
3行目以降でPUNPEEは少年時代の自身に語りかけています。
おバカ映画として嘲笑していた世界。
君は将来、そんなおぞましい世界を生きることになるのだ、と...。