「会社員」が1分50秒、「今の私」が5分8秒の曲です。それに対してトラック3はタイトル通り約60分間(59分26秒)、トークのみが収録されているのです。

インストルメンタルバンドが人声のみのトラックを、何故シングルに収録するのか。しかも、曲のトラックよりも随分長いものを、です。考えると哲学の領域にまで踏み込んでしまいそうです。

そのMVも2曲を1本にまとめてしまっていて、この内容です。「今の私」編での浜野謙太の熱演が喉に詰まりそうです。

こちらもつくり手の熱量が画面の力として強く出過ぎて、曲が頭に入ってこないくらいです。

「SAYONARA」MV

前項でご覧頂いたように、SAKEROCKはとことん悪ふざけを詰め込んだMVをつくるバンドだったのです。

だからこそ、SAKEROCK最後のMVSAKEROCKの集大成とも言うべき最大の悪ふざけが披露されるものと、多くの人は思っていました。

「終わり」とか「解散」とか「別れ」とか、そんなものは微塵も感じさせない映像を突きつけられてしまうのだろうと、それがSAKEROCKだろうと、考えていた人は決して少なくなかったでしょう。

みなさんもそう思うでしょうか?

SAKEROCK「SAYONARA」

ピアノの音、ギターの音、マリンバの音、どれも寂寥を感じさせる音色のイントロから曲ははじまります。続くトロンボーンも、これまでの曲のようにコミカルな音色ではありません。ドラムは、半ば乱暴に。

悪ふざけなしのSAKEROCKが、ここにあります。別れを、別れることの寂しさを、イントロから堅実に表現して、視聴者に突きつけてきます。この音色だけで涙腺が刺激されてしまうというものです。

暗い中に寂しい照明の煙った場所で、彼らはただ演奏します。「SAYONARA」という曲を。

バンドの隙間を縫うようにメンバーを捉えるカメラは、それぞれを接写して巡ります。次第に被写体から遠ざかりはじめ、メンバーの配置が分かるようになります。

彼らは輪になって、輪の内側に向いて演奏しています。5人がお互いの顔を見ながら演奏しているのです。これはお互いがお互いを認め合っていることの表現にほかなりません。

はじめて5人で演奏して、これが5人が顔を合わせてSAKEROCKとして演奏する最後のMVです。

4人のときもあり、3人のときもありました。理由があってメンバーはSAKEROCKを離れたり、SAKEROCKに入ってきたりしました。

いまはその理由を問わず、5人の誰もがSAKEROCKとして生きたことを証し立てているのです。その姿が、それを体現する演奏が、胸を打ちます。

後半、星野のボーカルが入り、他のメンバーがシンガロングします。5人が声を合わせるのも、これが唯一の機会です。

このパートを境に、暗かった背景が少しずつ明るくなっていきます。夜明けです。

朝日が見えはじめ、空が輝き出します。明けきらぬ朝の中、SAKEROCKは演奏を終えます。

円形に並んだ5人。天からその様子を捉えるカメラ。天を仰ぐ5人。

「夜明け」「空を見上げる」ことが象徴することは何なのかと、説明する必要もないでしょう。夜明けの空の向こうにあるものを、誰もが知っています。

私たちはSAKEROCKの全力を見たのです。具体的な歌詞を持たない曲が表したものが、見た人の心に残るでしょう。

「SAYONARA」コード譜

先の項のMVで演奏された「SAYONARA」のコード譜です。まずはイントロから。

DM7 A C#m7/G7 F#m7
Bm7 E F#m/F#mM7 F#m7/F#m6
DM7 A C#m7/G7 F#m7
Bm7 E A

出典: SAYONARA/作詞:星野源 作曲:星野源

ピアノからはじまり、ギターとマリンバが重なってくる部分です。静かな音の語り出しが別れを予感させます。

  DM7  A
 C#m7 G7 F#m7
  Bm7   E   F#m F#mM7 F#m7 F#m6
  DM7  A
 C#m7 G7 F#m7
  Bm7   E   F#m G7 F#m G7

出典: SAYONARA/作詞:星野源 作曲:星野源

続いてトロンボーンとドラムが入ってきます。これまでのSAKEROCKのコミカルな「楽しく踊れる」雰囲気を、楽器の音が表してはいないことがここまでで既に分かってしまいます

F#m G7 F#m G7
DM7    C#m7
Bm7 C#m7 F#m
DM7    C#m7
Bm7 C#m7 F#m

DM7    C#m7
Bm7 C#m7 F#m
DM7    C#m7
Bm7 C#m7
DM7 E   F#

出典: SAYONARA/作詞:星野源 作曲:星野源

MVで主旋律のトロンボーンとドラムが強く出ている部分です。叩きつけるようなドラムはこれまで伊藤が奏でたことがなかった音。「SAYONARA」のためのとっておきの音と言えます。

  DM7  A
 C#m7 G7 F#m7
  Bm7  E    F#m F#mM7 F#m7 F#m6
  DM7  A
 C#m7 G7 F#m7
  Bm7  E    A

DM7    C#m7
Bm7 C#m7 F#m
DM7    C#m7
Bm7 C#m7
DM7 E   F#

出典: SAYONARA/作詞:星野源 作曲:星野源

ここに大サビが入ります。

  DM7  A
 C#m7 G7 F#m7
  Bm7  E    F#m F#mM7 F#m7 F#m6
  DM7  A
 C#m7 G7 F#m7
  Bm7  E    DM7

出典: SAYONARA/作詞:星野源 作曲:星野源

この後は転調して、スキャットでボーカルが入ります。

DM7    C#m7
ラ ラ ラ ー ラ ラ ー
Bm7    Am7 A7
ラ ラ ラ ー ラ ラ ー ラ
DM7    C#m7
ラ ラ ラ ー ラ ラ ー
Bm7 E7  Am7 A7
ララ ラ ー ラ ラ

出典: SAYONARA/作詞:星野源 作曲:星野源