音楽に限らず多くの芸術が祭式から生まれました。
太古の祭式では木を叩く、つまりパーカッションが主体の音楽が生まれたと考えられます。
当時のパーカッションは一定のビートやリズムしか持っていなかったでしょう。
同じビートやリズムを緩急つけながら「反復」したのが音楽の最初の姿であろう。
こうした考察をもとに現代音楽の中で「反復」を利用したミニマリズムが台頭します。
「のりことのりお」はミニマリズムではないのですが、この要素を多分に採り入れることに成功しました。
つまり太古から続く音楽の根源の記憶を甦らせるような仕組みを内包したのです。
「のりことのりお」を聴くと不思議な気分になるでしょう。
メロディーと歌詞に「反復」を用いるそのサウンドはリスナーの深層意識に訴えかけるのです。
非常に怖ろしい楽曲であり「怖い」とすら思われます。
童謡を模した理由
単調な歌詞から一転して簡単なストーリーが展開されます。
きゃりーぱみゅぱみゅは何を歌ったのでしょうか。
ホタルよ来い
あっちの人はこっちにおいで
そっちの人もこっちにおいで
出典: のりことのりお/作詞:中田ヤスタカ(capsule) 作曲:中田ヤスタカ(capsule)
まるでホタルを呼び込むような歌詞になっています。
「のりことのりお」の骨格は童謡なのです。
きゃりーぱみゅぱみゅという子どもにも人気のアーティストをシンガーにして童謡を歌わせる。
中田ヤスタカは超一流のコーディネーターですから色々な思索に基づいて彼女をもり立てます。
童謡のような分かりやすさは消費者の世代を超えて訴えるでしょう。
単純な言葉とメロディーで構成された童謡は誰の記憶にもしがみついて離れません。
私たちは大人になっても幼少の頃に歌い聴かされた数々の童謡を覚えています。
中田ヤスタカはこの記憶から抜け落ちない童謡というものの力を利用し尽くすのです。
CMソングというものの本質を深く理解しているからでしょう。
「のりことのりお」の忘れ難い言葉たちやメロディーについつい惹かれてしまうのは無理がないです。
「あっち」「そっち」「こっち」
MNPの主体は3大キャリアです。
「のりことのりお」はauのCMソングですから、訴えかけるのは他のふたつのキャリアでしょう。
つまりdocomoとsoftbankです。
歌詞をよく見ると「あっち」と「そっち」のふたつのキャリアの利用者に「こっち」へと歌っています。
「あっち」はdocomo、「そっち」はsoftbankで「こっち」はauなのでしょう。
きゃりーぱみゅぱみゅは世界的なスターです。
日本に好意を抱いている海外のファンにも支えられています。
しかし「あっち」「そっち」「こっち」の事情まではご存じないでしょう。
日本のリスナーにはピンとくるでしょうが、海外のファンはこの仕掛に気付かないかもしれません。
それでも童謡には国境を超える普遍性があります。
具体的に日本の3大キャリアの事情を知らなくても「のりことのりお」は十分楽しめるはず。
千客万来、welcomeの精神は世界中に根付いています。
怖ろしさの正体
歌詞が段々と怖ろしさを増すのを見てください。
怖いという印象には訳があるのです。
友だちの引っ張りあい
きみの場所はどのあたり?
そっちの人もこちら側へおいで
出典: のりことのりお/作詞:中田ヤスタカ(capsule) 作曲:中田ヤスタカ(capsule)
曲が進むほどにどんどん深く怖ろしくなってゆきます
いまきみはどこにいるのと尋ねてくるのです。
どうしてきみとは離れ離れなのだろうかと訴えます。
もっと仲良くなりたいから「こっち」へ来て欲しい。
童謡は子どもたち同士の友だちの取り合いをモチーフにしています。
「あの子が欲しい」
友だちになりたいから仲間にならないかと歌う童謡が多いです。
「ホタル来い」
このホタルは直喩であり、友だちの隠喩でもあるでしょう。
MNPの友だちの呼び込みも童謡の世界と馴染みがいいのではないか。
中田ヤスタカの目の付け所の完璧さが「のりことのりお」の成功の基礎にあるはずです。
「こちら側」とは天国のこと
人を呼び込むというのは実際に怖い側面を持っているものです。
それも「こちら側」という表現をされると妖気の世界への誘いではないかと思わされます。
しかしauとの契約には妖気は必要ないでしょう。
「こちら側」は天国の表現ではないかなとも思います。
料金プランが他社に比べて天国だから旧い契約を捨てて「こちら側」へいらっしゃい。
MNPに関しては3大キャリアがすべて競争を強めます。
今では格安スマホ・格安SIMの会社も台頭していてスマホ戦国時代の様相を呈しているのです。
どの会社が天国であるのかは一概には断定できません。
消費者の混乱はより深まりました。
しかしMNPの解禁は消費者に主体性を持たせることに成功したかもしれません。
大資本に縛られることが少なくなることは消費者にとってプラスのことばかりでしょう。
「のりことのりお」の「こちら側」は明らかにauです。
しかしこの歌詞をもっと普遍的に捉えると選択肢はもっと広がりを魅せます。
「こちら側」をどこに求めるのかは消費者である私たちが決めていいことなのです。