生きにくい時代の若い世代を投影している曲「デリート」

アイドルグループ「ゆるめるモ!」を脱退したあのが、anoという名前で音楽活動を再始動しました。

そのソロ1枚目が2020年9月4日に配信がスタートした「デリート」です。

カタカナで「デリート」とみればスマートですが、「削除」というのがこの言葉の意味です。

しかも「自分で自分を削除する」ことについての曲と聞けばさらにショッキング。

誰もが生きづらさを感じている現代で、心の奥に抱えたを表現した楽曲です。

顔も声もとってもかわいいanoから伝わるメッセージは生への苦しさやもどかしさです。

MVのYouTubeのコメント欄には、若い世代からanoへの感謝の言葉が並びます。

言いにくいことをストレートに言ってくれるからこそ、anoの曲で心から素直になれるのでしょう。

ありがちな理想論ではない等身大のつぶやきは、聴く人の心にまっすぐに入ってきます。

ano自身の自宅でのMV撮影、プライベート感あふれるメッセージソング

 ミュージックビデオに映し出される生々しい若い女性の生きざまはとてもリアル。

片付いてもいない、布団に洋服が積まれている暗い部屋で寝転がるanoの姿があります。

窓を閉め切ってじめっとした雰囲気を感じさせる、鬱々とした雰囲気の部屋にひとり座るano。

キッチンには昭和のようなレトロ感ある木のまな板や調味料が置かれています。

歯磨きや歯ブラシが無造作に置かれている様子にも生活感が溢れすぎています。

どれもが「若い女の子の都会での一人暮らし」というイメージからはかけ離れた空間です。

このミュージックビデオは、ano自身の自宅で撮影されました。

童顔でかわいらしいanoと、エッジの効いたギター、カオスな部屋が対照的な動画に仕上がっています。

デリート(削除)に込められた思いとは

「自殺」「死にたい」という衝撃的な歌詞が綴られるanoの「デリート」。

「デリート」というタイトルに隠された気持ちは「自分を消去したい」という思いなのです。

 歌詞は冒頭から暗さ全開で、聞いていてどうしよう、と思わせられる曲ですが…。

聞いているうちに、絶望ばかりではない未来もかいま見える不思議な魅力があります。

 いいことなんてない。衝動的に自分を壊したり、消したくなってしまう。

それでも自分をデリートはせず生きていくという強さと切なさが共存しています。

どうしてそこまで自分を追い詰めてしまうの。

どうしてそんなにもがくの。苦しそうなの。

そう言いたくなってしまうけれど…、若い世代にとってはきっとこれが本音なのです。

若者から「心が楽になった」と言われるこの曲の歌詞について見ていきましょう。

自暴自棄から抜け出せない毎日

自分をバカだと言ってしまう気持ち

無自覚的に傷つけて自覚した バカだったってね
無差別的に愛されて満たされなくて自殺する バカだから

出典: デリート/作詞:あの 作曲:TAKU INOUE

冒頭から歌詞には「バカ」という言葉が象徴的に繰り返されます。

おそらく主人公は、周囲の大人に「バカ」という言葉を浴びせられて育ったのでしょう。

「そんなバカなことするんじゃないの」

「あんたバカじゃない?」

「バカ」と言われ続けたために自暴自棄で、自己肯定感も低くなってしまっています。

いやなことがあると、無自覚に自分を傷つけてしまい、また「バカなことしたな」と後悔します。

誰でもいいから愛されようとしても、やっぱり空虚な心は満たされずに自殺してしまいたくなる。

それを「私バカだから」で片づけようとします。

 「あなたはバカじゃない」と言ってほしい気持ちが心の奥底にはあるのかもしれません。

それでも「私はバカだから」で心を閉ざしてしまう主人公のかたくなさが見え隠れします。

自分の心を守るために自分から否定する

1人じゃ何もできない掃除もできない生きてる価値ない無理になる
バカどもに囲まれてバカになって元気になって夢みてる

出典: デリート/作詞:あの 作曲:TAKU INOUE

ひとりじゃ何もできないし、部屋も散らかっている。

それはMVからも見てとれます。

「こんな生活してたら生きる価値ないよ」と言われたことがあるのかもしれませんね。

主人公は「生きる価値はない生活」と認めつつも、そこだけにフォーカスしません。

「無理なものは無理」と切り捨てて自分の心を楽にする術は身につけています。

自分が何もできないことはわかっている。

だからこそ諦めの気持ちで受け入れています。

と、同時に現実ばかりを見ないで違う世界に目を向けるのです。

現実から逃避することは、「なんとか生きていく」という意味では正しいでしょう。

気心の知れた友達とバカ騒ぎして、うわべだけでも楽しいことにして元気なフリをするのです。

自分をごまかしながらでも毎日とりあえず生きている主人公はある意味強いのかもしれません。

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