「苺畑でつかまえて」
久々のシングル
「苺畑でつかまえて」は2016年1月15日にリリースされました。
サニーデイ・サービスにとって通算18枚目のシングルとなります。
2014年10月にリリースされたアルバム『Sunny』以来、久しぶりの新曲でした。
サニーデイ・サービスは2000年に一度解散し、2008年に再結成します。
再結成以降の彼らは曽我部恵一が主催するインディー・レーベルの「ROSE RECORD」から作品をリリースしています。
曽我部恵一はサニーデイ・サービスの他にもソロアーティストとして、そして曽我部恵一BANDとしても活動しています。
様々なアーティストとのコラボも多く、実に自由に音楽活動を続けているのです。
その分、サニーデイ・サービスにかかる時間が限られてしまうのは仕方がないのかもしれません。
しかし最近ではプロジェクトごとのサウンドの方向性に明確な境目がなくなってきた印象もあります。
サニーデイ・サービスも3人のバンド・アンサンブルを重視し、どちらかというとアコースティックなロック・サウンドでした。
しかし、この「苺畑でつかまえて」は打ち込みのリズムを使い、浮遊感のあるポップスに仕上がっています。
この記事ではこの曲の持つ魅力について、いろいろな角度から見ていきたいと思います。
タイトルはあの小説から?
「苺畑でつかまえて」というタイトルからは、ある小説を思い出す人も多いのではないでしょうか。
J.D.サリンジャーによる小説、「ライ麦畑でつかまえて」です。
欺瞞や建前による大人の世界をインチキとするホールデン・コールフィールドを主人公とする物語。
青春小説の名作として、1951年の発表以来世界中で愛されている作品です。
この曲のタイトルは当然、「ライ麦畑でつかまえて」を意識して元ネタとしていると思います。
歌詞の内容については後で詳しく解説したいと思いますが、確かに瑞々しい青春を歌った曲と言えるでしょう。
浮遊感のある美しいメロディーも素晴らしいと思います。
聞くたびに新しい魅力が生まれてくるような曲ですね。
収録アルバム
『DANCE TO YOU』
「苺畑でつかまえて」はシングルとしてリリースされた後、アルバム『DANCE TO YOU』に収録されています。
サニーデイ・サービスにとって通算10枚目のアルバムで、2016年8月3日にリリースされました。
2014年の『Sunny』から1年10か月ぶりのアルバムで、彼らにとって最も長いレコーディング期間を費やした作品です。
「苺畑でつかまえて」を含む全9曲を収録。
CDのほか、アナログ・レコードやカセットテープでも発売されています。
レコーディングは難航
サニーデイ・サービスは2008年の再結成以降、アコースティックな味わいのあるソフトなロックサウンドを志向していました。
それは90年代の彼らの音楽を思い起こさせるものでもありました。
ゲストによるキーボードやストリングスが入ることはあっても、あくまでも3人のシンプルなバンドアンサンブルが軸だったのです。
『DANCE TO YOU』のレコーディングでも、当初はその方向性でセッションを行っていたそうです。
しかし、ドラマーの丸山晴茂が体調不良によりレコーディングに参加できなくなるというアクシデントが発生します。
結局2016年2月、丸山が療養のためレコーディングやライブへの参加はできなくなる旨のアナウンスが公式サイトで発表されました。
これにより、レコーディングの様相が大きく変わります。
バンドでさらっとレコーディングしようという目論見は崩れてしまったのです。
曽我部恵一がほとんど一人で制作する
バンドでのレコーディングが不可能になってしまったので、違うやり方を模索します。
曽我部恵一はパソコンやプロトゥールスなどの機材を用いて、打ち込みでのサウンドを作り始めます。
自宅や練習用スタジオで録音した音をパソコン上で編集するなど、ほぼ一人で制作を進めたのです。
必要な時にメンバーを呼んでベースを弾いてもらったり、コーラスを入れたりしました。
このように、曽我部恵一が一人で作るスタイルは初めてではありません。
2000年の解散前に出したアルバム『LOVE ALBUM』も、同じようなやり方で制作された作品だったのです。
その当時はバンド内の関係も良くなく、曽我部恵一が一人で作ったほうが早いという理由によるものでした。
バンドである理由が薄くなってしまった結果、サニーデイ・サービスは解散という道をたどるのです。
それではこの『DANCE TO YOU』はどうだったのでしょう。
同様に、バンドはバラバラになってしまうのではないかと思うのが普通かもしれません。
しかし、そうではなかったのです。
『DANCE TO YOU』には「桜 super love」という曲が収録されています。
その歌詞にはこんなフレーズがあります。
君がいないことは 君がいることだなあ
出典: 桜 super love/作詞:曽我部恵一 作曲:曽我部恵一
これは、体調不良により離脱した丸山晴茂のことを歌った曲と言われています。
現場にいないことで、むしろ存在感が増すということなのでしょう。
一人で黙々と作業を続ける中で、曽我部恵一はバンドメンバーのことを常に頭に置いていたのではないでしょうか。
それはつまり、以前『LOVE ALBUM』を作っていた時と全く違うということを意味します。
一人であっても一人じゃない。
「苺畑でつかまえて」を含む『DANCE TO YOU』は、曽我部恵一がほぼ一人で作ったアルバムです。
それと同時に、サニーデイ・サービスのバンドとしてのアルバムでもあるのです。