ベテランが「命を燃やして」作ったアルバム
これまでのサニーデイ・サービスをぶっ壊した”奇作”
10thアルバム「Dance To You」はサニーデイ・サービスとして実に7年ぶりのアルバムとなりました。
9曲入りのこのアルバムを作るために制作した楽曲は実に50曲以上。
そのうち約40曲はレコーディングの最終段階であるマスタリングまで仕上げていたそうです。
それでも約30曲はボツにしてひたすらレコーディングをしていたというサニーデイ・サービスの3人。
その裏にはバンドとしてこれまでに無かった表情を見せたかったという理由があります。
バンド内で作詞・作曲を担当しているギターボーカルの曽我部恵一はインタビューにこう答えています。
「これまでのアルバムのフォロワーになりたくなかった」。
その結果「Dance To You」は新たなサニーデイ・サービスの一面を打ち出した意欲作となりました。
ちなみにサニーデイ・サービスは自主レーベルを構えています。
つまりレコーディングやエンジニアリングの費用はすべて自己負担だったということ。
約アルバム2枚分の費用を無駄にしたことになります。
90年代から現在まで独自の世界観で日本のポップシーンを牽引し続けているサニーデイ・サービス。
現状に甘えず、攻めの姿勢を貫いている彼らの音楽家としての誇りを感じられますね。
「セツナ」はアルバムでも注目の1曲
全編で1つの比喩を表した下北沢の詩人
なかでも「セツナ」は注目すべき1曲でしょう。
MVがつくられていますし、特に抽象的な歌詞はついつい意味を調べたくなるはずです。
作詞を担当した曽我部恵一は下北沢でカフェを経営しています。
彼の芸術性あふれる詞の世界観はまさに下北沢にピッタリ。
一文も無駄がないファンタジックで哲学的な内容とワードセンスには思わず感嘆してしまいます。
一見しただけでは分かりにくいと思いますが「セツナ」の詞では、ある季節を根底に据えていることにも注目。
では、セクション毎に解説します。サニーデイワールドにダイブ!
もはや文学者! 芸術的表現が目立つ詩
「さくら」を巧みな比喩で表現
夕暮れの街切り取ってピンクの呪文かける
魔女たちの季節
緩やかな放物線描き空
落下するパラシュートライダー
出典: セツナ/作詞:曽我部恵一 作曲:曽我部恵一
さぁ、サニーデイワールドの開幕です。
もはや詩集の一片を飾ってもいいほどの芸術的な表現が並びます。
これは曽我部恵一にしか書けない詩でしょう。
「意味分かんない、なにこれ」で済ませてはいけません。
彼が何を言いたいのかを、しっかりと仮説立てながら解説していきます。
詞を通して表現しているのはおそらく「さくら」の比喩でしょう。
実は「Dance To You」には「桜 Super love」や「苺畑でつかまえて」などの曲があります。
アルバム全体から春のムードが漂っているのです。
ここでも「さくら」を意識することで歌詞の意味がなんとなくつかめてきます。
単語のそれぞれにまでこだわったホンモノの詩
冒頭の部分では夕暮れをバックにさくらが咲き誇っている光景が広がります。
季節は春。花見客が集まり、宴会を開いているのでしょうか。
それとも、1人でただ眺めているのでしょうか。
どちらにせよ、美しい光景であることに間違いありません。
その後は「緩やかな放物線」とあります。
これはさくらが散っている様子を描いているのでしょう。
薄ピンクの桜の花びらが夕焼けを背景にパラシュートで降下している様子。
思わず見とれてしまうほど、平和でのんびりとした流麗さがあります。
そんな春の午後に、語り手は何を思うのでしょうか。
さくらの強さと美しさを巧みな比喩で描く
「セツナの恋人」とは「さくら」のこと
はじめっから汚れちまってる
眠ることのない魂
また今日もいつものところで待ってる
セツナの恋人
出典: セツナ/作詞:曽我部恵一 作曲:曽我部恵一