ツインボーカルのインパクト
不世出のバンドスタイル
1984年にシングル「暗闇でダンス」でデビューしたBARBEE BOYS(バービーボーイズ)。
5人組バンドの存在が全国のロックファンに広く知られるようになったのは、1986年ごろのことです。
ブレイクの引き金となったのは、男女のツインボーカルという斬新なバンドスタイル。
ムード歌謡や演歌などで見たことのあるデュエットとは、全く別のものでした。
バービーボーイズのツインボーカルは、マイクを握りながら互いに見つめ合ったりはしません。
もちろん、甘い言葉でささやき合ったりも。
せめぎ合うかのように、火花を散らし合うかのように、スリリングな言葉を戦わせたのです。
男女のボーカリストがリアルタイムで言葉を重ねる歌詞は、圧倒的な臨場感を生み出しました。
男性、女性のどちらかだけでは表現し切れない、双方向的なストーリーを展開したのです。
ブレイク直後の1986年には日本武道館、1988年には東京ドームのワンマンステージに立ちます。
大成功を収めた後も、彼らのバンドスタイルを真似るバンドは現れませんでした。
エレキギターという楽器の特性上、もともと高いロックの音域で、男女が同じオクターブで歌うということ。
それだけでも、男女のツインボーカルを成立させることがいかに難しいかが分かります。
バービーボーイズという不世出のバンドが放った、たぐいまれなる音楽。
彼らだからこそ完成させることができた、奇跡の結晶といえるのかもしれません。
目を閉じておいでよ
最大のヒット曲
1987年には、清涼飲料水のCM曲としてお茶の間に流れた7thシングル「女ぎつねon the Run」がヒット。
アルバム「LISTEN! BARBEE BOYS4」なども好セールスを記録します。
「目を閉じておいでよ」は昭和最後の年、1989年1月1日にリリースされた11thシングル。
5枚目のオリジナルアルバム「√5」の先行シングルでした。
よく読めば、純粋無垢なティーンズには刺激が強すぎるほどセクシャルな歌詞。
世の中の倫理に反する、いわゆる「イロモノ」的な音楽として受け止められても不思議ではありません。
しかし、歪んだ男女関係を生々しく描写したこの曲は、バービーボーイズにとって最大のヒット曲となります。
張り詰めるような緊迫感に満ちた、スリーピースバンドならではのソリッドでクールなロックサウンド。
シリアスでスリリングなサウンドに同調する、鋭いツインボーカルで放たれる歌詞。
そうしたパフォーマンスは、この曲に下世話なイメージを植え付ける余地を与えませんでした。
ツインボーカルによる男女のリアリティーが、強固なポピュラリティーを獲得した証といえます。
「目を閉じておいでよ」は大手化粧品会社の男性用整髪剤のCM曲に起用され、彼ら自身も出演していました。
きわどい言葉が並ぶ歌詞
「あいつ」と「俺」
"優しいだけのあいつを忘れて
激しい瞬間(とき)を夢見てたい夜"
ためらうだけでウダウダしている
あいつとくらべて 俺を見てるなら
"揺れ動くかけひきと 恥じらいの 洒落た夜"
そんなポーズなんて 今日は無くっていい
出典: 目を閉じておいでよ/作詞:いまみちともたか 作曲:いまみちともたか
序盤から、胸騒ぎを誘うニュアンスの言葉が続くこの曲。
「”」でくくられた部分が女性パート、バービーボーイズでは杏子が歌っているパートです。
歌詞からは、女性には「あいつ」と呼ぶほど親しい異性が存在していることがうかがえます。
女性と「あいつ」の間に、何があったのかは分かりません。
反対に、何もない時間が長すぎることに、不満を抱いたのかもしれません。
そうした状況への不満を感じられるのが「あいつを忘れて」「激しい瞬間を夢見てたい」という不穏な言葉。
そんな心の隙間に忍び込むように登場するのが、近藤敦(KONTA)が歌うミステリアスな存在の「俺」。
女性の「かけひき」「恥じらい」を「ポーズ」と決め付け、そんなものは「無くっていい」と迫るのです。
ソフトなフレーズに潜む凶暴さ
目を閉じておいでよ 顔は奴と違うから
ほら いつもを凌ぐ 熱い汗と息づかい
目を閉じておいでよ 癖が奴と違うなら
でも 慣れた指より そこがどこか分かるから
目を閉じておいでよ 違う夜を見たいなら
ほら いつもを凌ぐ 熱い汗と息づかい
目を閉じておいでよ 濡れた肌がわかるから
ほら 淫らな夢で まるで朝が変わるから
出典: 目を閉じておいでよ/作詞:いまみちともたか 作曲:いまみちともたか
サビの歌詞は、さらに大胆で刺激的なもの。
どんな場面を描写しているのかは、あえて説明するまでもありません。
曲のタイトルにもなった「目を閉じておいでよ」というソフトなフレーズ。
その裏には、秘められた欲望を強引に引き出し、自らの欲望も満たそうとする凶暴さが潜んでいるのです。