美しい!命の礼賛歌
七尾旅人さんといえば知る人ぞ知る、オルタナティブなシンガーソングライターです。
ボアダムスの山本精一さんや朝ドラ「あまちゃん」の音楽でも活躍された大友良英さんなど……。
即興演奏家として多数のミュージシャンとセッションしていることでも独自性を発揮しています。
東日本大震災などの災害や世界の貧困・紛争に対して、アクションを起こす活動家。
1998年のデビュー以来、様々なフェスに出没するお祭り男……とも言えるでしょう。
デビュー20周年を飾る7枚目のアルバム「Stray Dogs」が2018年12月12日にリリース。
その収録曲「きみはうつくしい」のMVがこちらです。
「きみはうつくしい」は2011年3月11日に発生した東日本大震災の直後から作られた楽曲。
七尾旅人さんにとって大切な方が、自ら命を落とされたことをきっかけに再構成されました。
つまり命の礼賛歌……というわけですね。「注意」という黄色い旗の立つ海辺や人気のない街……。
泥まみれの汚れた顔で立ちすくむ、七尾旅人さんと少年は何と美しいことでしょうか。
険しい道を生き抜くために、この「きみはうつくしい」の歌詞を読み解いていきましょう。
いつか立ち上がる
険しい道でも…
いつかきみはたちあがる
どんなに道は険しくとも
雨にうたれ 風にふかれ
果てない壁に 阻まれても
きみはうつくしい
出典: きみはうつくしい/作詞:七尾旅人 作曲:七尾旅人
途方に暮れるしかない絶望的な状況……私たち人間は時として見舞われることがあるものです。
とくに地震などの天災は人間の力で防ぐことができず、予想もできず、突発的に襲ってきます。
そんなとんでもない事態に陥った時に「頑張れ!立ち上がれ!」と言われても、無理でしょう。
しかし……というのが歌詞の冒頭です。時間はかかるはず。それでも「立ち上がる」ということ。
「いつか」と時間を区切らない、せかさないところが非常に優しいですね。
「きみはうつくしい」の制作秘話を知ると、そうなれば良かった……という願いにも聞こえます。
結局、壁に立ち向かえなかったのかもしれませんが、立ち上がろうとしていたのでしょう。
そんな姿が美しいというわけですね。
翼が折れても…
そしてきみはたちあがる
どんなに道は険しくとも
雨にうたれ 風に吹かれ
果てない壁に 阻まれても
折れた翼で 煽られて
夜の彼方に さらわれても
出典: きみはうつくしい/作詞:七尾旅人 作曲:七尾旅人
どんなに頑張ってもどうにもならない時は、心が折れるものです。それこそ翼が折れた状態。
その挙句、折れた翼まで風に煽られると……やりきれません。それでも「立ち上がる」わけです。
困難な出来事が起きた時ほど、さらなる問題が発生しやすいものかもしれません。
これ以上どうしろ?と……誰に訊けばいいのかもわからない悪循環。それでも……という話。
決して「立ち上がれ」とは言っていません。ただ「立ち上がる」と静かに語っています。
災害に見舞われた方も、その他の問題で苦しんでいる方も、共感できるのではないでしょうか。
偉大なる小さな変化に注目!
時間はかかるでしょう
微かなchanges
ゆっくりと でも確かに
Great little changes
変わってくのは?
出典: きみはうつくしい/作詞:七尾旅人 作曲:七尾旅人
ほとんど変わっていないかのように見えても、少しずつ物事は動いているものです。
絶望や悲嘆といった心境も、長い年月が経つと、ほんのわずかながらでも和らぐことでしょう。
繰り返す悪循環の中にも、小さな喜びが紛れているかもしれません。そうした些細な変化……。
これこそが偉大であるという話です。見落としがちなわずかな変化に目を向けてみましょう。
泥まみれでも美しい
泥にまみれ あざけられ
焼けつく痛みに震えても
きみはうつくしい
きみはうつくしい
出典: きみはうつくしい/作詞:七尾旅人 作曲:七尾旅人