夜明けや旅路という言葉が示すように、わたしは新たな道を進み出そうとしています。

けれど、その先にあなたはいない。

不安も恐れも自分ひとりで受け止めて、あてどもない旅に出るしかないのです。

行く先を示してくれるものはなく、共にいてくれたあなたももういない。

苦しさを抱えながら、前に進むしかありません。

あなたを沈める淵は記憶の奥底

あなたを沈めていく虚の淵
ウタカタ揺れる

出典: ウタカタ/作詞:天野月子 作曲:天野月子

あなたを沈める淵、とは何を意味しているのでしょうか。

先程の不知火の表現からも海や水辺のイメージが見えてきます。

心象風景としての水辺。

淵は深淵などの言葉にも使われる、深い水の底を思わせる言葉です。

そこから、わたしがあなたを沈める淵というのは深く見えない海の底。

心の中とすれば記憶の奥底にあなたの想い出を沈めていくことを指しています。

ウタカタは漢字で書くと「泡沫」。

海に浮かぶ泡のように消えてしまう儚いものを指します。

あなたを思う幻がカタカナで書かれていたように、これもあなたといる幻を指しているのでしょう。

あなたという儚い幻は記憶の海に沈み、揺れて消えていくのです。

消えてしまう泡沫の想い

甘い攪拌に浮かび上がる記憶

甘い攪拌に浮かび踊る想いは
小さな叫び声上げて淡く弾けた

出典: ウタカタ/作詞:天野月子 作曲:天野月子

あなたといる幻を泡沫に例えたわたし。

その幻を深く沈めた海辺をかき混ぜる行為は、想い出を呼び起こす行動です。

甘く愛おしい記憶を束の間思い出す。

しかしそうして浮かんだ泡、つまり泡沫はすぐに弾けて消えてしまうのです。

叫び声という言葉からは、ふたりが別の道を行く理由に何らかの悲劇があったことを思わせます。

今は大切な記憶をそっとかき混ぜて、淡い想いをひととき呼び起こすことしかできないのです。

あなたから遠く離れて

コノママフタリ繋イダ腕ヲ
切ラズイレタラ何ヲ見タダロウ
ワタシノ足ハ 在リシ場所カラ
ドレクライ離レタノ

出典: ウタカタ/作詞:天野月子 作曲:天野月子

ふたたびカタカナで描かれる歌詞

これもまた選ぶことができなかった、あなたといる幻を描いています。

腕、足という身体的なイメージが描かれるこの一節。

あなたという存在がわたしにとって身体の一部のように近く親しいものだったことが伝わってきます。

もし腕をつないだままいられたら、見えた景色はまるで違ったかもしれない。

在りし場所とはわたしとあなたが共にいられた場所のことを指すのでしょう。

そこから腕を離し、自分ひとりの足で歩いてきた。

あなたの存在した場所はもうずっと遠くに離れてしまったとわたしは感じています。

それはそのまま、あなたと共にあった場所にはもう戻れないということを指すのです。

戻らない想いの行方

いっそ忘れてしまうことができれば

あなたが望むのなら
微塵に砕いて忘れてもいい

出典: ウタカタ/作詞:天野月子 作曲:天野月子

わたしはあなたとの記憶を忘れるのではなく、深く沈めて想い出さないことを選んでいます。

もう取り戻すことのできない大切な記憶は、時に想い出すだけでつらいものです。

いっそ忘れることができれば楽だったのかもしれない。

けれどあなたが望むのならという言葉からは、あなたが忘れることを望んでいないことも感じ取れます。

今は共にいることができないあなた。

そのあなたとの記憶を大切にしたい気持ちが伝わってきます。

同時に、それほどまでに大切な記憶もあなたの望みならば砕いても構わない

そんな激しく深い愛が伝わる一節です。

想いはあなたに向かう