Jimi Hendrixへのオマージュ
一見何の変哲もないFender社製のストラトキャスターです。
しかしよく見ると違和感を感じる方も多いことでしょう。
通常ギターのボディはネックとの付け根にカッタウェイと呼ばれる切込みが入っています。
これはハイポジションでの運指を行いやすくするためのものです。
ところがトータス松本のギターのカッタウェイは上の方が深く窪んでいます。
これは左利き用のギターをあえて逆さまにして使用しているためです。
ハッキリいって弾きにくいことこの上ないでしょう。
実はこの持ち方はかの有名なギタリストJimi Hendrixへのオマージュなのです。
Jimi Hendrixが活躍した当時、まだ左利き用のギターは製造されていませんでした。
そのため彼は右利き用のモデルをやむなく逆さまにして演奏していたのです。
The Jimi Hendrix Experienceは3ピースのロックンロールバンド。
3ピースに生まれ変わったウルフルズが姿を重ねるのはかつてのレジェンドです。
大人になっても忘れない遊び心。
とてもウルフルズらしい演出といえるでしょう。
一度きりの人生、好きをやめるな!
場所も時間も関係ない、喜びに満ち溢れた演奏
リズムをとめるな
歌をやめるな
飛びっきりのヤバい閃きを
いつか掴むよ
涙をとめるな
好きをやめるな
一回きりのヤバい人生を
駆け抜ける
出典: リズムをとめるな/作詞:トータス松本 作曲:トータス松本
かき鳴らされるギターストローク。
共鳴するように低くうなるベースと刻まれるタイトなリズム。
『リズムをとめるな』のMVでウルフルズは様々な場所で演奏を行います。
歩道橋の上、ビルの屋上、海の臨める港、高架下などライブ会場は様々です。
見上げる空は時に青く輝き、時に闇夜に包まれています。
彼らにとって場所も時間も関係ない。
とめられないのは「ウルフルズという場所」で演奏をできる喜びです。
カメラはその表情を逃すまいと限りなく近づいていきます。
まるで目の前で演奏を見ているような錯覚を覚える計算し尽くされたカメラアングル。
その素材を渡邉哲氏は細かなカット割りと編集技術で見事にスタイリッシュに仕上げています。
エレキギター・ベース・ドラムのみで奏でるシンプルなロックンロール。
その姿勢はインディーズ時代の名盤『爆発オンパレード』を彷彿とさせます。
ただ演奏をできるだけで喜びに満ち溢れていたあの頃。
原点回帰ともいえる『リズムをとめるな』を今この時代に鳴らすことが重要なのです。
とまらないリズムとは?
ドラムをとめるな
ストロークをやめるな
お前だけに響かせたい歌を
今こそ歌うよ
グルーヴをとめるな
セッションをやめるな
転がり出したヤバい人生を
駆け抜ける
出典: リズムをとめるな/作詞:トータス松本 作曲:トータス松本
16ビートのタメを利かせたビートで始まる『リズムをとめるな』。
30年間の歩みを噛みしめるような演奏です。
この30年間の中でウルフルズは様々な転換点を迎えてきました。
1996年の『ガッツだぜ』&『バンザイ 〜好きでよかった〜』での突然のブレイク。
ジョン・B・チョッパーの4年間の不在期間も経験しました。
2009年夏からはウルフルズというバンド自体を見つめ直すために約4年間の活動休止。
そして2018年からのウルフルケイスケのバンド活動休止です。
しかしターニングポイントを迎える度にウルフルズにしか鳴らせないサウンドを聴かせてくれました。
『笑えれば』『ええねん』『どうでもよすぎ』といったポジティブなロックンロールです。
『リズムをとめるな』ではサビの始まりと共につんのめり気味の8ビートに突入します。
リズムとは心臓の鼓動であり、愛する人々とのコミュニケーションなのです。
ミューズ(女神)が象徴するものとは?
黄色を愛する笑顔のギタリスト・ウルフルケイスケ?
ヤツの笑った歯茎
あの子の高い声
すべて何もかもが
愛おしいOn my mind
心に火を灯せ
Take my hand, Lean me on
出典: リズムをとめるな/作詞:トータス松本 作曲:トータス松本
MVには度々ミューズ(女神)のような女性が現れます。
黒いドレスを身に纏いリズムに合わせて踊る女性。
彼女は何を象徴しているのでしょうか?
ビル風を避けるために羽織るのは鮮やかな黄色のダウンジャケット。
その色で思い出すのはいつも3人のすぐそばで笑顔を絶やさなかった人物。
黄色い野球帽がトレードマークの野球チームをこよなく愛する男。
そう、ウルフルケイスケです。
彼はウルフルズを脱退したわけではありません。
少しの間だけ心地いバンドという空間を離れ自分を見つめ直しているのでしょう。
疲れたらまた帰っておいで。
帰る場所=ウルフルズは演奏を、歩みを止めずに待っているよ。
そんなメッセージを感じ取れるのではないでしょうか?
MVが映し出すのは2019年のウルフルズの音楽に対する姿勢
シンプルな映像で構成された『リズムをとめるな』のMV。
そこからは現在のウルフルズの音楽にかけるスタンスが見え隠れしています。
音を鳴らせることの喜び=原点回帰。
ウルフルズ流の愛するアート作家へのオマージュ。
そしてウルフルケイスケの帰る場所を守り続ける姿勢です。
何があっても命をかけて演奏を続ける3人の姿。
そこにあるのは誰もが少年時代に憧れたかっこいい大人の姿です。
MVの途中、数度メンバーの視点と思われるカットが挟み込まれます。
突然何もない青空にパンするカメラ。
トータス松本とジョン・B・チョッパーの背後を見つめる視点。
これらはぜひフルバージョンをご覧になり直接確認してください。