背伸びした関係

初詣の帰りに熱が出て帰れなくなった主人公。

休むために…と君が連れて行ってくれたのはビジネスホテルでした。

帰ろうとする君を止めた主人公。そのままホテルで一泊することを決めたのです。

きっとこの大胆な告白の裏で、主人公はその日に君と一線を越えてもいいと覚悟したのでしょう。

むしろそれを望んだからこそ帰らないという選択をしたのです。

人づきあいが上手な方ではなかった主人公。当然恋もしたことがありませんでした。

だからきっと年上の君に、「高校生の」…ではなく「大人の恋愛を教えてほしかったのではないでしょうか。

手をつないで、唇が触れるだけのキスをして、それだけで終わるのではなくもっと深く愛される経験

これがもう1つ主人公の知りたがっていたことでしょう。

苦みが残した物とは

さよならの彩度で
その煙の温度で
苦い味が忘れられないよ
口に残るように

出典: 煙/作詞:n-buna 作曲:n-buna

主人公が苦いと感じていたこと。それも2つあるようですね。

歌詞1行目にある「君との別れ」、そして2行目にある「17歳で吸ってみた煙草」。

まず2行目は非常にシンプルですね。君に憧れて吸ったはじめての煙草の苦みです。

決して美味しくはなかったけれど、背伸びして君に近づきたかったから頑張って吸ってみた煙草。

そんなエピソードつきの煙草の味など、忘れられるはずがありません。

さらに煙草=君という記憶があるために、主人公は別れの後も君の存在を思い出すのです。

これは続く歌詞とともにじっくり解説しましょう。

続いて1行目に戻ります。主人公にとっては「君との別れ」も苦いものなのです。

「彩度」という明るい表現をしているのは、君との別れをどうしても忘れることができないから。

あまりにも唐突に訪れた別れを鮮明に記憶しているからこそ鮮やかなのです。

ただし先程も触れたとおり、鮮やかさとは裏腹にこの記憶は主人公に苦みを残しています。

これは言い換えれば後悔

なぜ君に想いを伝えなかったのか。なぜあの時のキスの意味を聞かなかったのか。

そんな後悔が、主人公の中で煙草の苦みと一緒に記憶されているのです。

面影を探してしまう

冬の温度に震えた 息は
真白に染まるようで
唇から覗いた それが、
煙草の煙に

出典: 煙/作詞:n-buna 作曲:n-buna

寒い日に息をすると白く見えるもの。その白い息がまるで君の煙草の煙のように見えたのかもしれません。

歌詞4行目でそう言い切らず言葉が止まっているのは、彼を思い出す苦しさを理解しているからでしょう。

君の存在が意識されることで、一緒に過ごした日々を思い出したり別れの瞬間がフラッシュバックしたり…。

主人公の胸は苦しくなってしまうのです。だから言葉をあえて止めました。

そこで思考を断ち切るために。彼のことを連想しないように。そうやって前に進もうとしている姿が感じられます。

まだ思い出す

出会いの場所で

見える君の温度で
夜のライブハウスで
私の知らない音を全部教えて
鼻歌で小さく
歪むほどに大きく
何一つも忘れられないよ
耳に残るように

出典: 煙/作詞:n-buna 作曲:n-buna

ライブハウスは主人公と君が出会った場所です。

最初はよそよそしかった2人の距離も、ライブハウスでの仕事を通して少しずつ近づいていきました。

ここではそんな日常の中で2人が過ごした時間、交わした会話を想像させるフレーズが続いています。

君は元バンドマンでした。当時演奏していたオリジナル曲は、結局最後まで聴かせてもらえなかった主人公。

でももしかすると、君はふとそのオリジナル曲のフレーズを口ずさんだことがあったのかもしれません。

楽曲の切れ端をいつまでも大切に覚えている主人公。君への想いの強さが感じられます。

やっと前に…

三月のパンタシア【煙】歌詞の意味を徹底解釈!私が知りたいことって?苦い後味がもたらすものを読み解くの画像

止まれないスピードで
冷めぬ夜の温度で
私の知らないものを全部教えて
さよならありがと
その煙の温度も
苦い味も忘れないよ

口に残るように

出典: 煙/作詞:n-buna 作曲:n-buna

ようやく未練を断ち切ったのか、ここでは前を向き始めた様子が描かれています。

というのも主人公は物語の最後でようやく彼と自分の秘密、そして本当の想いに気がつくことができたから。

歌詞1-3行目では、これまで触れてきた断片的な思い出が全て繋がっている様子が感じられますね。

これも前を向けたことの象徴でしょう。

1つ1つのエピソードに固執せず、「君と過ごした時間」としてまとめて捉えることができるようになったのです。

これは決して思い出が薄れたということではありません。

これまでグチャグチャに散乱していた君との思い出が整理され、きちんと収納できたという変化でしょう。

再び「苦い味」も登場していますが、ここには後悔の念など感じられません。

煙草の煙を感じた初めてのキス。そのあたたかさを指しているのではないでしょうか。

同じ歌詞に込められた意味の違いも、主人公の心の変化を表現しているのです。