主題歌兼ヒロイン

水瀬いのりは2021年7月21日【HELLO HORIZON】をリリース。
透明感のある歌声の中に決意も感じさせるような爽快な1曲です。
こちらはどぜう丸によるライトノベル『現実主義勇者の王国再建記』のアニメ版主題歌に起用されました。
また水瀬自身も作中のヒロインといえる王女リーシア・エルフリーデンの声を演じています。
勇者の冒険を想起させる草原を舞台としたMVもYouTubeに公開され、より曲の世界を引き立ててくれます。
しかし本作の勇者は一風変わっていまして・・・。
この勇者、現実的につき
舞台はエルフリーデン王国。
エルフや半獣人などの多民族およそ200万人を抱える東方の中規模国家。
ですが近年魔王領と呼ばれる魔族の領地が勢力を伸ばし、世界には暗雲が立ち込めようとしていました。
また王国は貧困に苛まれ、更にはグラン・ケイオス帝国からの圧力により国家は窮地に立たされます。
帝国サイドからの要求としては、勇者を召喚し差し渡すのなら魔王軍との戦争支援金を免除する、とのこと。
そして召喚魔法によりエルフリーデンに呼び寄せられた勇者が現世で大学進学を控えた相馬一也だったのです。
国の事情を説明され、まずは一也を要求通り差し渡せば切れるカードがなくなってしまうとし、その案は保留に。
そして一也は問いかけます。
この世界における「勇者」とは如何なる認識なのかと。
普通の学生がファンタジーワールドの中世騎士国家に迷い込めば、勇者のイメージはある程度定まってきます。
それは巨悪に勇敢に立ち向かう剣の達人で、世に平和をもたらす英雄。
ある世界では「魔王を倒す者」と言い伝えられているかもしれません。
ですが返ってきた答えは「変革を導く者」という意外なものでした。
学生である一也には魔王を倒せるような武力など当然あるはずもありません。
ですが変革を導くのが勇者なら解釈は広義に亘り、それとは違った形で世界を変えることができるかもしれません。
一也がまず目を向けたのは、グラン・ケイオス帝国が申し付けた要求についてです。
何しろ帝国に身柄を引き渡されるようなことがあれば凄惨な拷問が待ち受けていないとも言い切れません。
そこでそもそも帝国が要求する戦争支援金を払いさえすれば自身が人質にされることはないと考えます。
一也はここで持ち前の現実主義を発揮し、エルフリーデンの経済事情について国王や宰相と会議を重ねました。
その見識と手腕を見込まれ、国王はある決意を固めるのです。
それは異世界より招かれし勇者ソーマ・カズヤに王位を譲りエルフリーデン国王とする、というものでした。
戦場で躍動する勇者のイメージどこへやらです。
それはさておき、一也は身の安全を図っただけのはずが国王へと大抜擢を受けることとなります。
とはいえ一也には元の世界へ戻る方法もわからず、つい先日祖父を亡くし待っている家族もいません。
しばらくはこの国で暮らしていくのだろうと覚悟するよりありませんでした。
ともあれこの相馬一也という人物、タイトルにもあるように物事への対処が常に現実的。
仮にも異種族が人と共存し魔法が飛び交う世界の勇者とは思えません。
一般的な勇者というのは勇気や義侠心に溢れ、正義を大義名分に立ち上がる屈強の男。
みんなの夢と希望を背負い、平和をもたらすべく先頭に立って戦う者であるはずです。
ですが一也は戦いではなく政治の先頭に立ち、国を導いていくことを選びました。
さて一風変わった勇者ですが【HELLO HORIZON】の歌詞は物語にどう寄り添うのか気になるところ。
王国と共に僕は行く
前を向こう、この世界が未来だ
それより前を向けといま 声嗄らし胸が泣いた
失くしたもの一度きりで 元には戻せないのでしょうか
出典: HELLO HORIZON/作詞:岩里祐穂 作曲:白戸佑輔
いよいよ歌は幕を開けます。
まずは主人公の相馬一也の目線で見ていくことにしましょう。
冒頭「それ」が示すのは「前」以前と考えられます。
一也はエルフリーデンに来る以前は大学入学を控える普通の学生でした。
ですが彼は異世界へ勇者として召喚されてしまうのです。
「失くしたもの」とは元の世界での生活のことであると考えられます。
一度きりの運命のいたずらで元の世界へ帰るのが難しい状況となっています。
前を向くというのは、故郷に思いを馳せるのでなくこの世界で生きていくという決意でしょう。
彼は胸が締め付けられるような想いを声を嗄らして叫ぶのでした。
振り返れば数奇な運命
横並びの雲が目をはなしたすきにどこかへ行ってしまうように
何もかも
出典: HELLO HORIZON/作詞:岩里祐穂 作曲:白戸佑輔
相馬一也の見る景色は数奇な運命により何もかも一瞬で変わってしまったのですね。
異世界に召喚された一也。
世界が変わったとしてすぐには何が起こったかすら理解できないでしょう。
しかし並んだ雲の一方が程なくして消え去っていたように、目の前に元の世界はありません。
まさに狐につままれたような気分です。
つまりはこの時の一也はまだ自分の運命に戸惑っている様子です。
BメロはAメロの一也が回想しているシーンを歌っているという時間のトリックが隠されていたのですね。
異世界は居場所と自信をくれた
世界に求められる僕なんて
どこにもいないと思ってたのに
信じること 信じたとき
ありのままの自分がいた
出典: HELLO HORIZON/作詞:岩里祐穂 作曲:白戸佑輔
一也は元の世界で最後の家族である祖父を亡くし、人に求められるようなことはないと思っていました。
そんな矢先、異世界へトリップし勇者と崇められ、国王を譲位されるという破格の厚遇を受けることになるのです。
もうこの時点で一也の誰にも相手にされないと半ば諦めていた念は消え去ったのでしょう。
この「諦めの思念が消え去った」という結果はここでは省略されています。
文脈から想像させることを促しているのでしょう。
その後一也は国王として執政し自分の意志が国政に反映されていくにつれ、自分の言葉の力を実感していきます。
自分の言葉が形になる、つまり自分の言葉が信じられる状態になる体験をしていくのです。
自身の思想や信念が認められ信じることができ、気付けばありのままの自分に自信が持てるようになっていました。