「ゆっくりだけれども確実に欠けていた欠片が立ち現れる

ある夢の中で失くした記憶たちを独りで探している自分に気が付くよ」

自分の選択というものは必ずしもクリアな状態で下されるものではありません。

すべてが自分の意志で下した選択というものは人間の脳の構造から考えるとファンタジーのようなもの。

選択の中には自分のクリアな意志だけではなく深層心理に潜んでいて掴みきれない欲望が関与します。

深層心理というものに疑いがある人もいるでしょう。

そういう人のために選択には社会や周囲からの見えざる手が下した影響などのノイズが混じる。

そんな説明も可能なはずです。

もしくは潜在意識と社会・周囲からの見えざる影響の両方が自分の選択にノイズとして残っています。

私はこうしたノイズのようなものを夜の夢の中で発見するのです。

ああ、自分で下したと思っていた選択にはナニモノかの影響が関与していたのかと気付かされます。

パズルの失くしたピースのようなもの。

穴が空いていた自分の選択に気付いてしまった僕はどうしてこうなったのかと夢の中を泳ぐのです。

夢に問い合わせることはとても大切なことでしょう。

ノイズのようなものは夢の中でしか気付けないこともあるからです。

ただ、実際には夢というものは自分のクリアな意識でコントロールできるものではありません。

意図的に失くした欠片を捜そうと思っていても無駄でしょう。

それでも運が良ければ夢は無意識の領域からヒントを与えてくれるはずです。

このラインを読み込む際に大事なのは僕がなぜこのような寂しい夢を見るのかということでしょう。

「Anyone」の歌詞は先へ進むごとにこの辺りの僕の眠れる意識が浮き彫りになります。

先を見ていきましょう。

叫ばずにはいられない

THE CHARM PARK【Anyone】歌詞を和訳して意味を徹底解釈!何のために誰を呼んでいる?の画像

Ah I'm screaming out loud

出典: Anyone/作詞:THE CHARM PARK 作曲:THE CHARM PARK

「ああ、僕は大声で叫びまくっている」

「Anyone」の歌詞は短く情報量が少ないです。

ある意味でリスナーの理解にとって不親切な歌詞かもしれません。

この箇所で僕はまるでメンタリティが瓦解したような行動をします。

夢の中での出来事なのでしょうか、それとも悪夢から覚醒めて思わず叫んでいたのでしょうか。

歌詞の中ではこのラインがどのような状況で起こした行動なのか明示されません。

付加的な情報も限られています。

いずれにしても僕は我を忘れたかのように大声で叫んでいるのです。

怖ろしいナニモノかを見てしまったときのようにスクリームします。

THE CHARM PARKはADMともいうべきサウンドですが固有の盛り上がりを示すのです。

怖れることなく恥ずかしくも思っていない自分の人生でなぜ僕は叫んでいるのでしょうか

その謎は次のラインで明示されます。

ただし非常に抽象的な事柄しか書かれていません。

先を見ていきましょう。

どうか痛みのケアを

誰かを求めて止まない心

THE CHARM PARK【Anyone】歌詞を和訳して意味を徹底解釈!何のために誰を呼んでいる?の画像

Anybody out there? Anybody out there?
Is there someone else to ease my pain

出典: Anyone/作詞:THE CHARM PARK 作曲:THE CHARM PARK

「誰かそこにいるのか? 誰かそこにいるの?

僕の痛みを癒やしてくれるような誰かが」

この「誰かそこにいるの?」という言葉はサスペンス映画などでよく使われるセリフです。

見えないところに誰かいそうだけれど、そこにいるのと尋ねるような状況で使われるセリフでしょう。

しかしここでは見えないところに誰かがいてくれている保証はどこにもありません

サスペンス映画で影に潜んでいるのは殺人鬼かもしれないでしょう。

しかし「Anyone」では僕の傷を癒やしてくれるようなパートナーはいるのかと尋ねています。

殺人鬼と遭遇するよりもこうしたパートナーとの出会いの方が可能性は高いです。

しかし今の僕は君を失ってしまって、どうにもならない穴の空いた心の持ち主であります。

この先の人生で君に替わるような誰かが現れてくれることに自信が持てません。

僕は自分自身の選択だからと意気がっていましたが独りで生き抜く覚悟はないのです。

誰かパートナーとともに人生を過ごしてゆきたいと願っている思いが目を醒まします。

一度、この事実を自覚すると孤独である自分の状況に耐えきれなくなるのです。

僕はとりたてて強くも弱くもない平均的な男性なのでしょう。

意志の強さを示すラインで幕開けしましたが孤独であることの寂寥感に苛まされる普通の男性です。

それもパートナーに求める条件が自分の痛みを和らげてくれるような人だといいます。

繊細な心の持ち主であるのですからcharmのようなアーティストの姿を投影しているのでしょう。

草食系男子の生態を見る

THE CHARM PARK【Anyone】歌詞を和訳して意味を徹底解釈!何のために誰を呼んでいる?の画像

And someone else to lean on?
Anybody out there? Is there anyone?

出典: Anyone/作詞:THE CHARM PARK 作曲:THE CHARM PARK

「頼ってもいい そんな他の誰かっているのかな?

誰かそこにいるの? 誰かそこにいるのか?」

僕の孤独は癒やされません。

しかし孤独だからこそ誰かを求めて止まないのです。

とはいってもこうした感情は日本社会の草食系男子からは消え失せたのかもしれません。

何でも独りで楽しんだ方が経済的に得かもしれない。

そこまで日本の若者の貧困化が進んでいます。

若い方は日本社会の景気が良かった時代には生まれてもいないのでこうした状況が当たり前なのです。

こうした社会の変遷に一番の責任があるバブル世代の大人が草食系男子を嘆いたり叱咤したりします。

しかしcharmはこうした日本社会の文脈とはまったく別の国からやってきました

THE CHARM PARKの歌詞が洋楽そのものと感じられるのはそのためでしょう。

それでも絶対的な孤独に耐えられるほど人は強くありません。

草食系男子にはこうした心の穴をネットのコミュニティなどで埋めている人もいるでしょう。

どこかで他者を求めてしまうのは避けられない人間の性(さが)です。

生まれた瞬間に母親との紐帯を確認するのですから、私たち人間は社会から逃げられない存在でしょう。

僕も独りで生きてゆくことの耐え難い想いに叫ばずにはいられない恐怖を感じました。

人間の本能に関わる他者との交歓への希求のような思いが僕の心を揺らすのです。

叫びは私たちのもの

主語が私たちに変わること

THE CHARM PARK【Anyone】歌詞を和訳して意味を徹底解釈!何のために誰を呼んでいる?の画像

Ah we're screaming out loud

出典: Anyone/作詞:THE CHARM PARK 作曲:THE CHARM PARK

「ああ、僕らは大声で叫びまくっている」

主語が変わります。

僕から僕ら、あるいはすべての人へと変わってゆくのです。

THE CHARM PARKは僕がここで抱える思いはあなたのことでもあるよと歌います。

ぼくのことでもあり、あなたのことであり、彼・彼女のことでもある。

私たち人間存在は孤独に苛まれると叫ばずにはいられない存在なのです。

人間というものは誰かの叫びの中に自分との関わりをすぐに探り出します。

この叫びは誰のものだろうか、自分と関係はあるのかと問うて危機について考えるのです。

THE CHARM PARKは僕の叫びは人間存在そのものの性質に由来するものだと素早く見抜きました。

社会はどこまでも細分化されてゆきます。

いまでは隣の住人の名前も知らないという人も多いでしょう。

社会的な連帯感を持てないように為政者たちは人々の間にわざと壁を築きます

この壁に隔てられて私たちは意見の違いなどがある者同士では会話さえできません。

孤独な思いを抱えた人々はさらに社会の中で増殖します。

その孤独をシェアしあって重さや辛さを軽減しようという智慧が必要でしょう。

手を取ることも大事ですが自分の居場所を報せるためにまず叫んでみてはどうだろうか。

THE CHARM PARKは歌詞の中のフィクションですが「We」という主語を用いました

社会の至るところでこうした叫びが聴こえる。

この叫びに耳を傾けて生きることができたならば。

そして実際に叫んでいる人に手を差し伸べることができたならば社会の連帯機運も回復できます。

冷たい自己責任原則の社会ではなく、共助・公助を差し伸べられる社会へと転換できるのです。

しかしいまのところ私たちは闇雲に叫んでいるだけでしょう。

叫びを聴き遂げる能力も必要なのかもしれません。

思いやりという基礎が崩れた