あなたは誰?
ただの一度の素直になれずに
愛されたってどうなるの?
なんて言えやしないし、嫌に見えないしなあ
出典: 青い棘/作詞:Yoh Kamiyama 作曲:Yoh Kamiyama
相手に嫌われたくなくて本音を隠したくて嘘をつく。
嘘は悪いことではありません。
しかし、あまりにも多すぎると自分のことすらわからなくなってしまいます。
嘘を重ねて、重ねて。
そこにいるのはいったい誰なのでしょう。
「自分」ではなく正体不明の誰かが気づけば生まれてその誰かが愛される。
その事実に果たして意味があるのかどうか。
だとして直接言えるわけではありません。
むしろ相手がそれでいいと思っているのならば水を差してしまうことになります。
それにしても、思っていることを言えやしない主人公。
主人公もまた素直になれない人間のよう。
愛されたところで意味があるのかという問いかけ。
それは自分自身に問いかけている言葉なのかもしれません。
嫌に見えないのは苦しさも忘れてしまったからなのでしょうか。
当たり前になってしまえば違和感もなくなってしまいます。
もしかしたら普段通りこそが無理をしている様子なのかもしれませんが。
ひずみはいつか形になる
自分では大丈夫だと思っていても無理をしていれば体に現れます。
熱が出たり咳をしたり。
心も同様です。
その時にしっかりと休めば問題はありませんがおざなりにしてしまうことも。
その場しのぎの対処では意味がないのですが。
いたみは癒えることなく
熱が出て思い出した
悪いことは全部 冷蔵庫の中へ
こっちへ来て 笑うのさ
部屋の明かりも消さないで
ソファの上で落ちる 夢の中
出典: 青い棘/作詞:Yoh Kamiyama 作曲:Yoh Kamiyama
普段は隠していた心の重み。
言えずに閉じ込めた言葉の数々。
そういったものは時間がたてば氷のように自然と溶けていくわけではありません。
見たくないからといったん心のどこかに隠したままなのです。
ところで冷蔵庫は食材を保管する倉庫。
冷蔵庫に入れられた食材はある程度の品質を保つことができます。
食材の傷みを遅らせることが可能なのです。
そんな「冷蔵庫」に入れられてしまった悪いことの数々。
ただでさえ風化しにくいというのに、これでは尚更です。
痛みはたいして癒えることなく残ったまま。
そうしてため込まれ過ぎたものに、冷蔵庫はオーバーヒートを起こします。
熱が出たら、思い出さずにはいられません。
そうしてぶり返してくるのです。
自分が見ないふりをした痛みの数々が。
言わずにいた言葉はガラスとなって心を打ち。
忘れていたはずの苦しさを訴えかけてきます。
「取る」のではなく「切る」
熱が出て思い出した
悪いことは全部 冷蔵庫の中へ
こっちへ来て 笑うのさ
痛みを怖がることもない
さあ 目を閉じて切る 青い棘
出典: 青い棘/作詞:Yoh Kamiyama 作曲:Yoh Kamiyama
人は熱を出したら眠ります。
体がきついからでも、早く熱を下げたいからでもあります。
ソファの上でもベッドの上でも構いません。
とりあえず横になって目を閉じて夢の中へ。
それは苦しい現実からの逃避でもあります。
そして出てくる「青い棘」。
棘というとまず思い浮かぶものが美しい薔薇の棘です。
薔薇にしろ他の物にしろ、棘が手に刺さると痛いもの。
それもズキズキと訴えかけてくるような痛みです。
それを取るために指を強く押し出したり針を使ったり。
刺さるだけでも痛いのに取り出す際にも痛みが生じます。
心の痛みも同様のものでしょう。
しかしここで気になるのは「取る」のではなく「切る」ということ。
切ってしまっては、棘は体の中に残ったままです。
それともこの「棘」とは薔薇のようについているものを指すのでしょうか。
しかしその棘を切ってしまっては自身を守る方法がなくなります。
どちらにしろ、自身にとって良い方法だとは思えません。
行きつく先は?
こんなくだらない暮らしを許せないの
私が古くなって、煙になって、消え交わっている
こんなくだらない暮らしを愛せないの
私が鈍くなって、いつかを待って、また重なって
こんなくだらない暮らしを許せないの
私が古くなって、煙になって、消え交わっている
こんなくだらない私を見つけないで
形が歪になって、轍に沿って、また行き着いて
出典: 青い棘/作詞:Yoh Kamiyama 作曲:Yoh Kamiyama
もういなくなった人が好きだったものを買う。
本音をいつも押し隠す。
嫌なことは全部どこかに隠す。
痛みの処理も不十分なままやり過ごす。
正直、憧れる暮らし方ではありません。
主人公はそんな暮らしをくだらないと切り捨てています。
そう、主人公もそんな暮らしはゴメンだと思っていることがわかります。
思っているけれども変えることはできない。
そんな自分にも嫌気がさしているのでしょう。
だから誰にも自分を見て欲しくないと思っているのです。
「私を」見ないで欲しいと。
いなくなった人に囚われて前に進めずに古くなっていく自分。
本当に存在しているのかも曖昧な自分。
嘘ばかりついて自分の姿はきっと歪に見えるのでしょう。
ですが歪だとしても、道なりだとしても、どこかに行き着きます。
その行き着いた先が望むものならば良いのですが。
日々の暮らしが棘になる
生活していると多くのことがあります。
嬉しいことも辛いことも。
嬉しいことはあっさりと消えるのに嫌なことは覚えているものです。
そういったものは棘となり自身に痛みをもたらします。
その棘を抜いてくれるのは誰なのでしょうか。