送り出す視点であることからこれは故郷で誰かから聞いた言葉だと思われます。
躓いたときは戻ってきてもいいんだよ、という優しい言葉です。
今彼はその「駄目なとき」かもう駄目になりそうなときにいるのでしょう。
故郷を思い返していると、夢は夢のままでもいいという暖かい言葉を思い出しました。
もしかしたら、そう声をかけてくれた人も夢を追い、叶えられなかった過去があるのかもしれません。
夢を夢のままで終わらせる、ということは夢を見たまま叶えられずに過ごしていくことにはなります。
しかし、夢を叶えようとする過程で挫折を味わったり、夢と理想の違いに苦しむこともありません。
これも一つの現実的な選択肢でしょう。
夢を叶えるまで故郷には帰らない
惚れてるんだよ 待ってておくれ
浮世小路の 五合酒
出典: 南部蝉しぐれ/作詞:久仁京介 作曲:四方章人
夢のままでも良いと、優しい声をかけてくれた相手は好きな人だったのでしょう。
しかし、あくまで夢を叶えるまで戻らないことを決めています。
好きな人にはいいところを見せたい、そんな思いがあったのかもしれません。
浮世小路は裏長屋などの小路などの意味もありますがここでは人の世を表しています。
世の中は、自分の思い通りにはいかないことばかりです。
その中で、五合酒と少なくない量の酒を飲みながらも自分の心はしっかりと定まっているようです。
ここの歌詞は、ともすれば夢を諦めて戻るから故郷で待っていて欲しいという意味合いにも取れるでしょう。
ですがそれは違うことが次の歌詞から解釈することができます。
故郷の2つの教訓
赤々と燃える太陽
負けて泣くより 勝って泣け
時節は来ると 風がいう
あれをご覧よ 真っ赤な夕陽
落ちてゆくのに まだ燃えている
出典: 南部蝉しぐれ/作詞:久仁京介 作曲:四方章人
負ける、というのは夢を叶えることが出来ないことを指していると考えられます。
夢を叶えることができずに泣くより、夢を叶えて嬉しさで泣く方がいいという彼の思いです。
悪いことばかりではなく夢を叶える機会は必ず来る、そんな予感を感じているのでしょう。
夏の夕日は、沈みきるまで赤々と輝きます。
沈んでいきながら、見えなくなる最後の一瞬まで赤く燃えたままの夕陽にも勇気付けられました。
教訓を胸に
とがって生きろ 丸くはなるな
胸に聞こえる 蝉しぐれ
出典: 南部蝉しぐれ/作詞:久仁京介 作曲:四方章人
世の中をうまく渡っていくためには、普通は丸くなった方がいいと言われることが多いものです。
丸くなると時には人との衝突を避けるためある程度譲歩する、なんてことも珍しくありません。
譲歩して自分のやりたかったことなどを諦めないといけなくなることもあるでしょう。
逆に、とがる、ということは自分を貫くことになります。
当然誰かと衝突することになるかもしれません。
しかし、そこで譲歩して自分の夢が叶えられないということがなくなるのではないでしょうか。
夢を叶えられないより叶えるほうが断然よく、夢を叶えるためには自分の意思を貫く必要がある。
この2つがきっと彼の故郷での教訓なのでしょう。
蝉しぐれの中、そんな教訓を胸に刻む情景が浮かぶ結びになっています。
【南部蝉しぐれ】に込められていたもの
誰しも夢を見たことがあると思います。
叶えた人もいれば、叶えられずに諦め、別の道を選んだ人もいるはずです。
結果はどうあれ、一度は夢のために行動しようとしたり実際に行動したことがあるでしょう。
【南部蝉しぐれ】はそんな人々が追った夢を思い出させるのかもしれません。
故郷を離れて夢を叶えようとした、そんな経験がある人ならなおさら心に染みるのではないでしょうか。
夢を追って故郷を離れたものの夢に近付けず、故郷のことを思い出してもっとがんばろうと決めた夏。
夏を歌った歌といえば爽やかさや夏特有のノスタルジックさを歌った曲は多くあります。
しかし、このような夏の夕暮れを思わせる曲もいいものです。
故郷への思いや故郷で学んだ教訓、そしてそれを胸に夢を追い続ける男を歌った【南部蝉しぐれ】。
再発売当初から安定した人気を誇りつづけ、2010年以降の演歌を代表する楽曲ともいえるでしょう。
演歌をそんなに知らなくても聞いたことがある、という人も多いのではないでしょうか。
2010年代は音楽ランキングに演歌が入っていないことも珍しくない時代でした。
この楽曲はそんな時代の中でカラオケの総合ランキングに入り、多くの人に愛される演歌になりました。
それは、福田こうへい自身が、故郷へ向けた思いも込めて歌ってるからこそかもしれません。
演歌が注目される機会が減った今でも好き、という人も多いのでないでしょうか。
この機会に、久々に聴き返して懐かしさに浸ってみるのもいいかもしれません。
最後に
今回は【南部蝉しぐれ】の歌詞を読み解いてみました。
夢追い人である主人公の苦悩と決意がしみじみと感じられる歌詞だと思います。
民謡歌手として培った力強い歌唱によって、歌詞に込められた思いがより心に響くのではないでしょうか。
演歌の中には【南部蝉しぐれ】で綴られたように、故郷への思いを綴った歌が多くあります。
こちらの記事で紹介している【アイヤ子守唄】もその一つです。