メキシコでは、「人は2度死ぬ」といわれています。
1度目は、肉体が死んだとき。文字通りの「死」ですね。
2度目は、生きている人から忘れ去られてしまったとき。
死者の地と生者の地には橋がかかります。
死者の日の祭壇に写真が飾られていない人は、その橋を渡ることはできません。
1年に1度のその日に、家族の元に帰ることができないのです。
写真を飾られず、次第に思い出されることもなくなった死者。
次第に身体がもろくなり、死者の地で立つこともできずに寝たきりになってしまいます。
そして、とうとう誰の記憶からもいなくなってしまったとき。
その人は「2度目の死」を迎え、死者の地からもいなくなるのです。
ミゲルは「2度目の死」の瞬間に立ち会い、「忘れてしまったらもう戻れない」ことを初めて知ります。
死者の願い
ミゲルが死者の地で知り合ったおかしな男・ヘクター。
彼はもろくなっていく自分の身体から「2度目の死」が近いことを悟ります。
幼い頃に別れたきりの自分の娘に会いたいと、絶望的に願っているのです。
自分のことを知っているのは、今となっては自分の娘一人だけ。
自分の身体がもろくなっているということは、娘が歳を取り、死期が迫っているということ。
娘が生きているうちに一目会いたいというヘクターの思いを叶えようと、ミゲルは奮闘します。
そしてミゲルは、隠されていた「リメンバー・ミー」の本当の意味を知るのです。
リメンバー・ミー
本記事で既に触れた通り、歌詞を単純に読むと「おまえ」は恋人や妻、愛する人へ。
心ならずも別れなければならなかった愛する人に、遠く離れた場所から優しく語りかけているようです。
しかし、映画の中で、国民的歌手の大ヒット曲として語られていたこの歌。
実は「たった一人大切な人」のために作られたものでした。
「リメンバー・ミー」(忘れないで)(思い出して)と繰り返されるリフレイン。
二人の間で、少しの間別れるときに、約束事のように語りかけていた歌。
まるでお喋りを交わすように。
別れている間、聴いている大事な人が寂しくならないように、そっと包み込むようにギターで奏でられた歌。
死者の地から戻ったミゲルは、その歌を「たった一人の大切な人」へと届けます。
歌は記憶を呼び覚まし、そして絆は結び直されます。
忘れ去られる記憶と永遠の夢
ここで、映画の原題を思い出してみましょう。
【COCO】。
そう、「リメンバー・ミー」は「ママ・ココ」に贈られた歌。
「たった一人の大切な人」はママ・ココなのです。
ミゲルが持って帰ってきた歌を聞き、彼女の記憶の扉がほんの少しだけ開きます。
静かに歌うミゲルに合わせて、ママ・ココの指が拍子をとり、小さな歌声が口からこぼれます。
幼い頃に大切な人が聞かせてくれた歌が、一瞬だけ昔を呼び覚ましたのです。
12歳のミゲルと年老いてもう立つこともできないママ・ココ。
声を合わせて歌う二人の姿に、周囲を取り囲んだ家族は、もう歌を禁止することはできませんでした。
家族のつながり
映画【リメンバー・ミー】は、時を超えた家族のつながりを描いた作品だといわれています。
一番身近な家族だからこそ、「覚えていられる」。
人はみんな死んでしまうけれども、思い出は家族の中に留まり、永遠に生き続けます。
主題歌「リメンバー・ミー」は、ママ・ココに贈られた歌。
そして、死んでいく家族から残していく家族へ向けて。
残された家族から死んでいく家族へ向けて。
互いに贈り合う歌のようにも思えます。
「ずっとおぼえているよ」、「見守っているよ」と。
一人きりで寂しい夜。
誰も、自分をわかってくれる人はいないと自分で自分をぎゅっと抱きしめても心が寒い夜。
一人きりだと思い込みがちな状況です。
だからこそ、そんな夜に思い出してみませんか?
お祭り騒ぎの中にそっと隠された、大切な人へのあたたかな思いを心に描きながら。
この歌を、聴いてみませんか。
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