少女が聴いた子守唄。

「よい子はねんねしな」

この部分だけではただ子守唄を聴いて眠ったという思い出にしかなりません。

しかしここで出てくる「薮知らず」とはどういった意味なのでしょうか。

現在でも千葉県に伝わる「八幡の薮知らず」

場所として存在しているのですが、昔から入ってはいけない場所という様に伝えられているそうです。

なぜ、入ってはならないのか。

それは、一度入ると二度と出てくることが出来ない場所と言い伝えられているのです。

その理由には諸説あるそうですが、現在でも立ち入り禁止になっているのだとか。

神隠しの場とも言われた「八幡の薮知らず」から歌詞を取ったのだとすれば…。

少女が聞いた子守唄は、誰が歌ったのかわからないという事になるのではないでしょうか。

知らない人に連れてこられたという事です。

少女が今いる場所に連れてきた人物が恐らく子守唄を歌ったのでしょう。

しかし、少女は幼すぎてその時の事を全く覚えていないのです。

それでも頭に残っている子守唄。その歌だけを覚えているのかもしれません。

「歌った人は行方不明=薮知らず」という解釈で考えてみました。

毎夜繰り返される日常

午前零時の鐘が鳴る 其の時に 蠢くは 朧月
徒然に身を重ねましょう
疑心暗鬼の華が咲く 高らかに 渡る世間は 鬼ばかり
浮舟に身を任せる

出典: 波瀾万丈、椿唄/作詞:マモ 作曲:マモ

「蠢く」とは「這って動くものが絶えず動き続けている様」を意味する言葉です。

「蠢く」ものの対照はおそらく客であると想像できます。

一見美しく表現されているようにも感じますが、少女にとっては汚く苦しい世界だと想像できます。

疑心暗鬼ということは、少女にとってなんでもないものでも恐怖に感じる心境なのでしょう。

少女にとって鬼とは男性の事を指すのではないでしょうか。

逃げ場の無い世界で、少女は抵抗する事を許されず身を任すことしかできない状況なのです。

毎日毎日怖い思いをし続け、何も信じられない気持ちなのでしょう。

それでいても抵抗することは許されない。

胸が苦しくなる少女の気持ちが表現されているサビの歌詞でした。

自分を捨てた家族

黄金色した蜘蛛 他人行儀さ らいらいと
飴玉一つだけ おくれ おくれや

三日もすりゃ 猫など恩知らず
今宵 獄の晩 さよなら

出典: 波瀾万丈、椿唄/作詞:マモ 作曲:マモ

「蜘蛛」という言葉は昔から良いイメージでは使われていません。

黄金色というのは恐らくお金の事でしょう。

少女にとって、お金はとても嫌な物と捉えているのがわかります。

そんな黄金色した蜘蛛を前に、親はその時だけいつもとは違う態度であったのでしょう。

そんな良い顔するなら、飴を頂戴と甘えようとする少女が想像できます。

猫など恩知らずとは…。

助けてあげた猫もすぐに自分の事を忘れてしまうという皮肉が込められています。

これから辛く苦しい生活が待っているのに、誰も自分の事を覚えてはいてくれないだろう。

そんな哀しい少女の気持ちが伝わってきます。

遊郭の中にいる少女

光る少女は籠の中 踊りゃんせ
浮世道 通りゃんせ
人生は 嗚呼、波瀾万丈
知らん面した あの人が 来やしゃんせ
品定め 見やしゃんせ
奪われし儚き春 遠き春 帰れぬ春

出典: 波瀾万丈、椿唄/作詞:マモ 作曲:マモ

遊女として働き始めた少女は遊郭の中でひたすら踊り続けます。

踊っている最中はみんなが少女に注目するわけです。

辛く悲しい道をこれから少女は歩いていくのです。

どこに行くかも定まっていないようなそんな先のわからない道を歩いていかなくてはならない。

そしてその道は、平たんな道では無く何が起こるかわからないような道なのです。

昨日関わりがあった人でも、また日が変われば自分の事は忘れ去られる。

自分は覚えているのに相手には忘れられてしまっているのです。

遊郭では店先に遊女達を並べ、その中から男性は女性を選びます。

その事を「品定め」と表現しているのがわかります。

少女にとっての「春」はおそらく「幸せ」を意味するのでしょう。

自分の幸せを奪われ、取り戻せず、兄弟達といた幸せな時には帰れないと嘆く少女の姿が想像できます。

自分を捨てた両親…それでも両親。

『前略、父と母・・・』筆を走らせても
溢れるのは五月雨 涙 ただそれだけ

出典: 波瀾万丈、椿唄/作詞:マモ 作曲:マモ

両親に宛てて手紙を書いているのでしょう。

しかし、最初の文を書くだけで涙が止まらない様子が想像できます。

自分の事を売った両親。

とても憎く思ってもおかしくないのですが、やはり唯一の両親。

少女は一生両親を忘れることはありません。

そして思い返すたびに涙を流すのでしょう。

五月雨というのはなかなか止んでくれないものです。

そんな五月雨の様に少女は涙を流しているのでしょう。

今自分が置かれている状況を思い返すと、憎くても両親には伝えられない。

宛名だけを書いてその先の文章がずっと思い浮かばないという状況なのでしょうね。

そうしてまた毎日が繰り返される

午前零時の鐘が鳴る 其の時に 蠢くは 朧月
徒然に身を重ねましょう
疑心暗鬼の華が咲く 高らかに 渡る世間は 鬼ばかり
浮舟に身を任せる 凛と泣く小春日和

出典: 波瀾万丈、椿唄/作詞:マモ 作曲:マモ