NORIKIYO【My Shot】に迫る
8thアルバム『馬鹿と鋏と』収録曲
驚異的なスピードで最高のクオリティーの楽曲を次々リリースするNORIKIYO。
今回ご紹介する【My Shot】は8thアルバム『馬鹿と鋏と』のラストナンバーへと繋がる12曲目に収録されています。
『馬鹿と鋏と』では古くから親交がある般若やMACCHOをはじめ意外な客演も多く登場し話題となった作品です。
コンセプトはアルバム名の通り、馬鹿と鋏は使いようということわざが大きく関係しています。
あまりいい意味で使われない言葉のひとつですが、本来の意味はどんな人や物でも使い方次第で有益に役立たせられるということ。
つまり自分の長所や利点をどう使っていくかが焦点となっているのです。
クールなMVもチェック
MVの舞台はとあるコーヒー店。
穏やかな空気が流れる日常の光景が映し出され、店内で淡々と作業をこなす店主NORIKIYOの姿が描かれていきます。
コーヒーに社会の矛盾と世の中への批判を流し込み溶けこませていくようなシーン。
映像だけ見ているとまるで温かみのあるショートムービーのような印象も受けますが歌詞に沿った展開にも注目です。
ただ撃つだけ
周りはもうどうでもいい くだらねぇ
回り回る Loose&Win 繰り返してんだけどさ I just on my way
I don’t care 恨まれる位で良い
Shoot my shot Shoot my… ただShoot my shot
出典: My Shot/作詞:NORIKIYO 作曲:Smith James
心地よいまどろみすら感じるメロウなトラックにのるのは随所、心に突き刺さるリリック。
そして静かに込めた銃弾を平然とした顔で世に放つようなフックが印象的です。
さらっとスタイリッシュに綴られていくのはNORIKIYO自身が突き通してきたスタンスでしょう。
憮然とした態度からは他人からどう思われようが動じない姿勢も感じられます。
目まぐるしく時にはくだらなさすら感じる周りの変化に応じず、自分は自分の道をいくだけ。
柔らかな雰囲気と対比する絶妙なバランスの中でただひたすら銃弾を打ち続ける姿が脳内をループし漂うような感覚を覚えます。
呼吸をするように自然と繰り出されるフロウ。
その歌詞に込められた意味とはなんでしょうか。
【My Shot】の歌詞を紐解いていきます。
どうしようもないくだらねぇ世の中に愛を込めて
くだらない世間に対しての流儀
まぁ やってまーす 相変わらず
口がわりぃのは前からだしPoison欲しけりゃ吐いてやら
でも無差別じゃないんだよな Dissる時は愛から来てる
それとだせぇもんにしたくねぇんだ前習えは
出典: My Shot/作詞:NORIKIYO 作曲:Smith James
余裕すら感じる軽快な挨拶からはじまる歌詞に表れるのは彼の変わることのないスタンス。
「周りはどうでもいい」というドライな印象も受けますが、ただ気の向くまま言葉を放っているわけではないことが明示されています。
「Dissる」は相手を蔑み批判することで、一方的に忌み嫌うような認識で広く使われている言葉です。
しかしNORIKIYOの場合は決してそれだけではなく、「Dissる」基となるのは愛だということ。
確かに遠慮を持たず他人に言いたいことを伝えるのには一定の信頼関係や思いやりも必要とされます。
本当にどうでもいい人や興味のない物事には批判は愚か、苦言を呈することもないでしょう。
さらに周りを無作為にのべつ幕なし批判するのは能がないし、センスもない。
「Dissる」に値する価値があるのかも見極めているようにも捉えらえます。
つまり愛がなければNORIKIYOの「Diss」は成立しないといえるのです。
それに続くのは自分自身がクールだと思わない風潮には従う気すらないという意思。
メジャーな思想やもはや常識になりつつある事柄に追従する選択肢など彼には毛頭ありません。
そうしたところで自分の価値を落としてしまうのも目に見えているのではないでしょうか。
飾らない言葉で「やりたい人はご勝手にどうぞ」と言っているように聴こえます。
くだらないと捉える世間に対してのNORIKIYOなりの流儀でもあるのかもしれません。
ヒップホップシーンへの提示
おい なんだよはったりか?
「今年出すアルバムでアンサーする」でも さっぱり…
待てど年もとうに変わり待つのもすらもかったりぃ
頭沸いてる? ガキや外野も本当ざったいよ
やっぱり 若干しましたがっかり
より「てめぇの人生ちゃんとやりー」ってその意見 本当そう
時間が無駄になっちまうしそれはそれで放っとこう
他人はできねぇコントロール じゃあ俺は俺でがんばろうっと
出典: My Shot/作詞:NORIKIYO 作曲:Smith James
今作でもNORIKIYOらしいヒップホップシーンへの提示がみてとれます。
当たり前のように行われるやり取りと、それを取り巻き面白がって各々批判や批評を繰り広げる外野たち。
そんな狭い世界での馴れ合いやしがらみを俯瞰的に見て放つ一言にすべてが集約されているようです。
自分の力ではどうすることもできない他人の言動にいちいち付き合っている暇はないのでしょう。
だったら自分はそのまま自分のやり方を貫いていくだけ。
これはヒップホップシーンに関わらず世間一般に通用する内容でもあるのではないでしょうか。
いくら他人を変えようとして必死になったところで自分の思い通りに動かせないのは当然です。
それにいくら時間と気力を割いても結末を変えることなどできません。
「とやかく言ってる時間があるならその分お前自身にしっかり向き合えよ。」
そんな風に耳に届いてなりません。