涙には幾つもの 思い出がある
心にも幾つかの 傷もある
ひとり酒 手酌酒 演歌を聞きながら
ホロリ酒 そんな夜も
たまにゃ なァいいさ
出典: 酒よ/作詞:吉幾三 作曲:吉幾三
主人公は一人、酒を飲んでいます。
宵の口でしょうか?
それとももう、かなり飲んでいるのでしょうか?
唐突に主人公は自分の感情を吐露します。
まるでリスナーに語りかけているかのようですね。
人間が生きる上で、幸せな事ばかりではありません。
いや、むしろそうではない日々の方が多いのではないでしょうか?
そうして溜まった心の澱(おり)を、酒を飲むことによって晴らします。
一緒に飲んでくれる仲間は、どうやらいないようです。
また、主人公が飲んでいる環境はどういった環境なのでしょうか?
居酒屋なのか?
それとも自宅なのか?
こうやって想像をたくましくするのも、音楽を聴く上での楽しみですね。
「ホロリ酒」という表現がユニークです。
主人公はお酒を飲みながら、涙しているのでしょう。
2番
あの頃を振り返りゃ 夢積む船で
荒波に向ってた 二人して
男酒 手酌酒 演歌を聞きながら
なァ酒よ お前には
わかるか なァ酒よ
出典: 酒よ/作詞:吉幾三 作曲:吉幾三
主人公と一緒に飲んでくれる仲間は、どうやら亡くなってしまったらしいです。
二人は漁師。
極寒の荒海を猛々しく生きる彼ら。
『酒よ』に登場する主人公は、もう一人の仲間と一緒に漁へ出ていたのでしょう。
過酷な現場をともに体験することによって生まれた友情。
そして、主人公より先に逝ってしまった仲間。
彼に主人公は語りかけているのです。
この歌はいわば「弔い」の歌。
『酒よ』のテーマは「弔い酒」だったのです。
「男酒」とは、この二人が酌み交わす「お酒」にほかなりません。
3番
飲みたいよ浴びるほど 眠りつくまで
男には明日がある わかるだろう
詫びながら 手酌酒 演歌を聞きながら
愛してる これからも
わかるよ なァ酒よ
出典: 酒よ/作詞:吉幾三 作曲:吉幾三
仲間を失ったことへの悲しみから、酒に溺れる主人公。
まるで、それをしなければ仲間が報われない、といった具合に飲み続けます。
「詫びながら」というフレーズが出てきます。
主人公はいったい何に謝るのでしょう。
いったい誰に謝るのでしょうか?
言うまでもなくこれは、仲間に対しての「詫び」です。
生きている間にもっと良くしてやればよかった。
もっと話を聞いてやればよかった。
そういった後悔の念で、主人公は仲間に詫びているのです。
二人はかなり仲が良かったのですね。
4番
詫びながら 手酌酒 演歌を聞きながら
愛してる これからも
わかるよ なァ酒よ
わかるよ なァ酒よ
出典: 酒よ/作詞:吉幾三 作曲:吉幾三
主人公は亡くなった仲間の他にも語りかけています。
それは「酒」。
「酒」そのものに対してではなく、「酒」というパイプを通して垣間見た「人生」。
「人生」そのものに語りかけているのです。
おそらく主人公は若くありません。
30代や40代。
いやもっと年をとっていると思います。
人生における艱難辛苦も随分体験したでしょう。
それと同じくらいに、喜びも体験してきました。
色々な体験をして年老いた主人公。
主人公が一番輝いていた時代を『酒よ』は描いています。
吉幾三オススメ曲
『津軽平野』
『津軽平野』に登場する「津軽」は、吉幾三の生まれ故郷です。
故郷青森の情景をリリカルに描いたこの曲。
主人公と「親父(おどう)」の涙ぐましい物語です。
吉幾三の曲は、冬をテーマにした曲が多いですが、この曲も例外ではありません。
出稼ぎに行く父親の背中を寂しそうに見送る主人公。
吉幾三の歌唱は、まるでリスナーがこの曲の主人公になったかのような錯覚を覚えさせてくれます。