そのうっ積した不満が、ツーコーラスのサビでさらに爆発します。
なんであいつと同じに歌えないんだよ
僕も天才ってチヤホヤされたいのに
煮ても焼いても全部オシャレ! 大好き! って
言われたいのに 言われたいのに
出典: ネタンデルタール人/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
「天才ってチヤホヤされたい」「煮ても焼いても全部オシャレ! 大好き!って」言われたい「僕」。
こんな具合に優れた相手を憎んで、どうして自分はできないんだ、ともだえ苦しむのは、人間であればこそです。
動物でもエサ獲りや繁殖をめぐって、相手を威かくしたり衝突したりすることはありますが、それは本能のなせるわざ。
人間が抱く嫉妬は、サルから類人猿、ネアンデルタール人へと進化した過程で受け継がれた闘争本能が、知性と一緒になって暴走する邪念。
なまじ知性があるから、相手の顔が気にくわない、とか、何でも上手くやる行動力が許せない、ひいてはズルイと悪くとってしまう。
人間は動物より頭がいいだけに、始末に負えません。
タイトルの「ネタンデルタール人」はそんなところから付けられたのでは、と思いきや、さにあらず。
“妬んでる”と“ネタンデル”の語感が似ていることから、妬んでる人=ネタンデルタール人と名付けたとか!
ネアンデルタール人とは何の関係もないのです。ただのダジャレ!
落語の大師匠・立川談志のありがたいお言葉
「赤めだか」で紹介された嫉妬の意味とその解決法
この“妬み”“嫉妬”という感情ですが、ちゃんと直す方法がございます。
今は亡き落語・立川流の家元、立川談志を描いた小説「赤めだか」の中にそれがございます。
談志師匠は、後輩の弟子を妬む立川談春に向けて、こんなことを言うのです。
「己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱みを口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云うんです」とは、さすが談志師匠。
まさに名言です。
師匠は続けて、嫉妬を解決するには相手を抜くための努力をすることだ、とも述べています。
さて「ネタンデルタール人」の「僕」は、ナルシスティックな自分の邪念をどのように解決しようとしているのでしょうか。
まず、妬むことを止めることから始めよう!
悟りを開くには、幼くて青い「僕」の決意
スリーコーラスの歌詞をみてみましょう。
ねぇ 僕は本気出し切れてないだけだよ
なるべく油断しながらうかうか待っててよ
大器は晩成なんだよって ジュラ紀から決まってるんだよ
さぁ大器を始めよう
出典: ネタンデルタール人/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
「油断しながらうかうか待っててよ」とか「大器晩成はジュラ紀から決まってるんだよ」といった歌詞には、妬む自分を律して努力する、といった殊勝な態度は見えません。
「僕」の先が思いやられます。妬む態度は当分改まらないでしょう。
おまけに、歌詞の文末を「~だよ」「~ててよ」「~るんだよ」と重ねるところは、まるでいきものがたりみたいです。
あちらの曲、例えば「いつだって僕らは」には、前向きに歩み出す“前進前進また前進”の力強さがあるのに対して、「ネタンデルタール人」ときたら後ろ向きで言い訳がましいだけ。
とはいえ、こんな言い訳男の「僕」だって、このように考えてはいるのです。
僕は僕の歌しか歌えないよ だから僕を磨いていくしかないだろう
出典: ネタンデルタール人/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
そう、やるべきことは、今の自分がやれることを一途にやること。
「僕」もそこには気付いています。
だから今後の「僕」に期待しましょう。
歌詞の最後に、そんな「僕」の決意表明があります。
きっぱりと決意を言い放つ、このエンディングはさわやかです。
妬んでるだけの時間を終わりにしよう
出典: ネタンデルタール人/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
妬んでるだけの時間とは、もしかすると思春期のことかも。
妬むことは二十歳になっても中年、老年になってもありますが、自分にないものを強烈に欲しがったり、うらやましがったりするのは、やはり青春時代でしょう。
だとしたら、人を妬むのは若いってことの証明かもしれません。