迫り来るあの明日が
消えてゆく昨日より魅せたら
出典: アルカディア/作詞:堀込泰行 作曲:堀込泰行
ずっとひとりで夜空を眺める主人公。
そのうち日にちをまたぐ時間帯になりました。つまり「昨日と明日の狭間」というわけです。
これは「過去と未来」の対比を象徴しているともいえるでしょう。
天と地、輝く&ぼやける、点滅。
これまでに散りばめられてきた対義語が、ここで一気に効いてきます。
歌物語としては「過去より未来のほうが魅力的ならいいのに」という主人公の願望が表現されているわけです。
こうした対比を一手に担っていたのが、ほうき星。
地球から見ると、現れたと思ってもすぐになくなります。
「過去」をなくなるものと捉えると、「未来」はこれから現れるもの。
またしても、MVの女性テロリストのことが頭をかすめたかもしれません。
女性が読んでいたのはサルトルの「存在と無」という哲学書でした。
「なぜ何もないのではなく、何かがあるのか?」は、哲学の一分野である形而上学の領域で議論される有名な問題の一つ。なぜ「無」ではなく、「何かが存在する」のか、その理由、根拠を問う問題。「究極のなぜの問い」、またはより簡潔に「究極の問い」とも呼ばれる。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/なぜ何もないのではなく、何かがあるのか
哲学には数学のような明確な答えはなく、考え方次第になります。
しかも「存在と無」のようなテーマは哲学者にとっても「究極の問い」。
そのためここでは内容については言及しませんが、「存在が明日、無が昨日」といった重ね方はできそうです。
何もない闇より、何かある光に魅力を感じたいという話かもしれません。
主人公が冬の空に投影した思いとは?
テンポの乱れた風、風
冬の宇宙も焦がす
出典: アルカディア/作詞:堀込泰行 作曲:堀込泰行
いよいよ昨日と明日が混ざり合う瞬間が近づいたものの、タイミングが悪いことに、風が吹いたようです。
しかも速度が調子っぱずれということで、強風なのではないでしょうか。
ただ、これもたとえでしょう。
自分自身をその場に似つかわしくない強風になぞらえているわけです。
失恋かどうかははっきりしませんが、主人公が何らかの悲しみを抱えていることは、既出の足音からも明らか。
心に風が吹くような虚無感に襲われた存在として、風そのものと同化している感じです。
「冬の宇宙」とは、ほうき星が流れる冬の空のこと。
火種さえあれば、風が吹くことによって燃え盛ることは可能です。
つまり、ほうき星を火種として、強風と化した自分自身が空を燃やす。
そんなイメージが浮かびます。
失恋してもなお、恋い焦がれる気持ちは燃え盛る一方なのでしょう。
2番の歌詞を見よう!
指で描いた
回る空っ風のループ
手のひらに浮かべて
息切れた都市に見舞う
出典: アルカディア/作詞:堀込泰行 作曲:堀込泰行
山から吹き下ろす風は冷たく、気流が乱れて円を描くこともあります。
その風が描いた円を指でなぞり、手を添え、街に向かって吹きかけました。
そうしたからといって、実際に街が吹き飛ばされることはありません。
これまでにも「実際の風景に自分の思いを重ねる遊び」をしていた主人公。
虚無感に苛まれた果ての、とりたてて意味のない行為という感じもします。
それでも意味を探そうとするなら「街を風で燃やしたい」という願望の表れかもしれません。
宇宙を燃やすほどの風ですから、街も燃やせるはずという理屈です。
あるいは街に失恋相手がいて、本当は燃え上がる恋心を届けたかったという話も考えられます。
いずれにしても風は「存在と無」のうち「無」を象徴しているようです。
ラストはどうなる?
背で見た明日はどんな日?
背で見るあの明日が
悲しみを彩ってみせたら
永遠と刹那のカフェ・オ・レ
冬の空を満たす
出典: アルカディア/作詞:堀込泰行 作曲:堀込泰行
主人公の抱える悲哀は、必ずしも失恋が原因とは限りません。
ほうき星でフルムーンを貫いたり、風と化して空を燃やしたりする際の言葉遣いから失恋を連想しただけです。
しかし何が原因だったとしても、途方もなく虚しい気分に陥っていることだけは確実。
この虚無感こそが、1行目の歌詞につながるでしょう。
「昨日と明日」のうち「明日」は光り輝く未来を表しているはずでした。
ところが「明日」に対して前向きではありません。
未来に希望がもてず、暗く落ち込んでいるなら、ということで3行目の歌詞に続きます。
ここがまたしても歴史に残る歌詞になっているといえるでしょう。
これまでさんざん対義語が並べられてきたわけですが、とうとう時間の対義語が混ざり合うのです。
アインシュタインの相対性理論や、ホーキング博士とペンローズのブラックホールの話。
この辺りがさらっとコーヒー&ミルクの飲み物に混ぜ合わされた感じです。
しかも美しく、かわいらしい表現で。
これなら未来に後ろ向きだった方も、すぐ反転して前向きになるでしょう。
しかも、この素敵な飲み物が冬の空いっぱいに広がるのです。
ただ、色はブラウンなので、空が大地の色に染まるというか、天と地が反転するというか。
ここで冒頭の「天と地」の対比につながるという深読みもできます。
要するに、これまでの歌詞すべてが「背で見た明日」だったのです。
過去に打ちひしがれ、虚無感を抱いたまま、未来まで後ろ向きにしか捉えられなかった日々。
それでも「永久と一瞬」が溶け合ったことで、「昨日と明日」の区別さえなくなったと考えられます。
時空と一体化し、悲しみが昇華された
ほら、もう空が開く
出典: アルカディア/作詞:堀込泰行 作曲:堀込泰行
サビが繰り返された後、つけ加えられる一言がこちら。
過去から未来へ時間が流れるという現代の一般的な考え方に照らし合わせると、いよいよ明日になるわけですね。
ただ、歌物語としては相反するものすべてが宇宙規模で混ざり合いました。
そのため時空と一体化することで、悲しみは昇華されるというダイナミックな結末だったと解釈できるでしょう。