僕の居場所は
何処にも無いのに
「一緒に帰ろう」
手を引かれてさ
知らない知らない僕は何も知らない
君はもう子供じゃないことも
慣れない他人の手の温もりは
ただ本当に本当に本当に本当のことなんだ
出典: 六兆年と一夜物語/作詞:kemu 作曲:kemu
「君」は少年の手を引いて、集落から連れ出します。
この時、少年は生まれて初めて他人に手を握られたのでしょう。
それまでは人と接する手段として暴力しかなかった少年は戸惑います。
「君」との出会いは少年にとって初めてのことばかりなのでしょう。
一番では人の温もりも優しさも知らなかった少年。
その両方を与えた「君」は少年の初めての家族なのでしょう。
逃避行
逃避行の末路
日が暮れて夜が明けて
遊び疲れて捕まって
こんな世界 僕と君以外
皆いなくなれば いいのにな
皆いなくなれば いいのにな
出典: 六兆年と一夜物語/作詞:kemu 作曲:kemu
「君」と逃げ出した少年は、しかし捕まってしまいます。
「遊び」というのは鬼ごっこに見立てた表現でしょう。
捕まえられる方が鬼の子という皮肉も孕んだ表現です。
夜のうちは逃げられたけれど朝になって体力も尽き、疲れ果てた二人。
明るくなって見つかってしまい、結局集落の人間に二人とも捕まるのでしょう。
だからこそ、少年は誰もいなくなればいいのにと願うのです。
願いは叶う
知らない知らない声が聞こえてさ
僕と君以外の全人類
抗う間もなく 手を引かれてさ
夕焼けの中に吸い込まれて
消えてった
出典: 六兆年と一夜物語/作詞:kemu 作曲:kemu
集落の人間しか知らなかった少年は、集落の人間をみんなといいます。
しかし、「知らない声」は容赦がありません。
少年の祈りは全ての人類に適用されるのです。
ある種悪意のある願いの叶えられ方です。
しかし、そんなことを知る由もない少年の願いは叶えられてしまうのです。
結果、世界には少年と「君」しか残りませんでした。
ある意味、旧約聖書のアダムとイブに似ています。
またここから世界が始まる、そんな予感のする歌詞なのです。
物語の最後
「君」と少年の物語
知らない知らない僕は何も知らない
これからのことも 君の名も
今は 今はこれでいいんだと
ただ本当に本当に本当に本当に思うんだ
出典: 六兆年と一夜物語/作詞:kemu 作曲:kemu
最初、何も与えられなかった少年は文字通り何も知りませんでした。
そもそも未来があることもわからなかったかもしれません。
暴力のはけ口で、人の温もりも知らなかった少年。
しかし、「君」が連れ出したことで全てが変わりました。
だからこそ今という概念も知ったのでしょう。
これからどうするかという未来も考えられるほど、少年は変わったのです。
この物語は「君」と少年にとってはひとまずの終わりを見せるのです。
耳鳴りの正体
知らない知らない あの耳鳴りは
夕焼けの中に吸い込まれて消えてった
出典: 六兆年と一夜物語/作詞:kemu 作曲:kemu
ここでの「耳鳴り」とはなんでしょう。
それまでに出てきている「知らない」音は知らない声だけです。
そして、少年の願いが叶えられる前は何度も知らない声という言葉が出てきました。
しかし少年の願いが叶えられた後は耳鳴り、という言葉に変化しているのです。
つまり、少年は願いを叶えられたことで声を声と認識していないと考えられます。
この願いが叶うという条件は、一度だけしか適用されないのかもしれません。
そのため、願いが叶った後はもう二度と願いが叶わないように声を認識できないのでしょう。
つまり、少年の願いは叶えられましたが、元の世界には戻らないのです。