「配給(はいきゅう)」は生活がままならない状況下で食料の割り当てて分配すること。
「暗澹(あんたん)たる」とは「薄暗くはっきりしない様子」。
苦しい状況下で薄暗い場所で食料の配給を受けているという意味でしょう。
食料を取り合いしている荒れた様子もうかがえます。
「侮蔑(ぶべつ」は罵ったり馬鹿にすること。
「一瞥(いちべつ)」はチラッと一目見ること。
「残滓(ざんさい)」とは残りカスみたいな意味合いです。
罵るようなまなざしで渡されたのは「誰かが挫折した夢の残りカス」でいっぱいのスープ…。
正直、美味しそうではありませんね。
苦くて、涙のしょっぱさもあって…そんな味を筆者は想像しました。
みずみずしい不幸
底の浅いボウルで それを粗雑にかき混ぜてみれば
器から勢い良く 不遇の涙がどっと飛び散る
嗚呼 なんて他人の災いはこんなにも瑞々しい
列を乱してさえも誰もが誰かの不幸を横取る時代だ
出典: UNHAPPY CLUB/作詞:東野へいと 作曲:東野へいと
先ほどのスープをかき混ぜると、夢に挫折した誰かの涙が飛び散りました。
それを「瑞々しい(みずみずしい)」と言っていますね。
これは新鮮な果物などに使われる表現。
噛んだ果実から果汁が溢れると「みずみずしい!」なんて言いませんか?
「スープから飛び散る涙」が「果物から溢れる果汁」のように「みずみずしい」という表現なのでしょう。
このスープを手にした主人公にとって不幸は「美味しい」と感じるみたいですね…。
それは配給の列を乱してでも横取りしたくなるほど。
苦しい環境で配給された「不幸のスープ」に心が躍っている…自ら不幸を求める様を生々しく描いています。
その姿は「化け物」
名を連ねるUNHAPPY CLUB
烏合の衆に染まっちゃいないか
シンパに飲まれりゃ化物になる
出典: UNHAPPY CLUB/作詞:東野へいと 作曲:東野へいと
配給の列に並んでいた人たちの総称がこの「UNHAPPY CLUB」と思われます。
「烏合の衆(うごうのしゅう)」とは規律なく集まった秩序のない集団。
「シンパ」とは直接かかわらず外部から革命などを助長する存在。
先ほどまでのスープの配給シーンを「生々しい」と感じていない彼らはまさに「化け物」じみた印象。
いつの間にか不幸を求める悪循環に迷い込み、周囲と共に深みにハマっている状況を指しているのでしょう。
不幸を求める悪循環
不幸から逃れたいのに不幸を求めてしまう
また胸裏の傷が忽ちと痛み出して
ただ脳裏じゃ何も考える余地が無くて
もう一回 そうやってもう何回
部屋の隅に心を追いやってんだ
まだ本当の声とどうしても向き合えなくて
ただ退路をずっと這いずって空回りして
くたばる機会を待っているだけの
浅い自分に揺らいでいく
出典: UNHAPPY CLUB/作詞:東野へいと 作曲:東野へいと
胸はチクチクと痛むのに、思考が追いつかない状況。
盲目になっており、自分が苦しんでいることを直視できていません。
そして何回も自分の心を奥深くへ閉じ込めて追いやっています。
心の底ではこんな状況を望んでいないのに…。
このままでは自分が力尽きて倒れるのに、不幸を求めるのをやめられない。
この精神構造について迫りましょう。
人は生きる過程の経験で環境に順応するため、誰もが「役割」を担います。
おそらくこの主人公は「不幸である状態」を「役割」として担ってきたのでしょう。
最初は自ら望んだのではなく誰かからの加害や不運があったはず。
ところが皮肉にも、一度負った「役割」はその後も習慣的に繰り返すことが多いといえます。
人は変化を恐れる生き物。
もちろんこれは防衛本能の一種から来ている大切な本能なのです。
このループから逃れるためには精神力や努力、心の支え(安心感)が必要となってきます。
おそらく、ループから逃れられない様を歌詞では描いているのではないでしょうか。
感情を消し去った
半壊の道理をどうにかバックパックにあるだけ詰め込んで
ボロ市みたいに一切の感情を叩き売った
そうやって食い繋いだ僅かな手間賃持って
どや街中の同情にかぶりついた
出典: UNHAPPY CLUB/作詞:東野へいと 作曲:東野へいと
ボロボロになった感情を叩きうる…つまりは消し去ったようなもの。
これは防衛本能の一種である「感情の抑制」を表現しているのかもしれません。
感情を鈍くさせることで痛みを和らげる「麻酔」のような状態。
しかし感情がなくなったことでポッカリと空いた「心の穴」を埋めるような行動に走ります。
最後の行では「他人から同情を得る」という行為で「心の穴」を埋めようとしていることがうかがえますね。
愛を食べ続ける他ない
愛されるだけが 僕等の全てだ
もう引き返せやしないと思った
奴らの思惑通り胃袋の中
出典: UNHAPPY CLUB/作詞:東野へいと 作曲:東野へいと
「心の穴」を埋めるための行為に走った主人公は愛に飢えた状態になります。
バクバクと愛をむさぼり食っても消化されて無くなってしまう。
今や生きるためには、誰かから愛を食べ続けるしかないのでしょう。