この曲でレコード大賞の優秀新人賞も受賞したテレサ・テン。
アジアの歌姫が、日本のお茶の間で受け入れられた瞬間でした。
男と女は飛行場で別れる
「空港」の舞台は空港(飛行場)です。
70年代~80年代の歌謡曲では、飛行場が男女の別れをドラマチックに彩ってきました。
気軽に旅行できる格安航空など影も形もない時代ですし、日本人の海外渡航が認められたのは1964年(前回東京五輪の年)。
1970年代はまだ飛行機自体が物珍しく、空港から飛び立つことにはそれなりの覚悟が伴いました。
結ばれぬ悲しい恋を物語るには、飛行場が演出する遠い距離感こそ、絶妙のスパイスだったのです。
男を捨てる女の自画像
そうした背景を理解すると、この曲の理解もより深まります。
歌詞を読んでみましょうか。たちどころに理解できますよ。
男女の温度差
何も知らずに あなたは言ったわ
たまには一人の 旅もいいよと
雨の空港 デッキにたたずみ
手を振るあなた 見えなくなるわ
どうぞ帰って あの人のもとへ
私は一人 去ってゆく
出典: 空港/作詞:山上路夫 作曲:猪俣公章
女は一人、旅に出ようとしています。無論空路の一人旅です。
女は男に捨てられるのではありません。自分で別れを決めたのです。
固い決意を胸に秘め、女は男に別れを告げます。口には出さずに別れを告げます。
そうとも知らず、のんきに女を見送る男。この鈍感野郎が!
もう一人の女は何者?
いつも静かに あなたの帰りを
待ってるやさしい 人がいるのよ
雨にけむった ジェットの窓から
涙をこらえ さよなら言うの
どうぞもどって あの人のもとへ
私は遠い 街へゆく
出典: 空港/作詞:山上路夫 作曲:猪俣公章
もう一人の貞淑な女が男の帰りを待っている。
ははーん。さてはこの恋、道ならぬ恋ですな?
奥様に遠慮してか、男との将来を憂慮してか、女はそっと身を引く覚悟。
女が向かう「遠い街」とは?海外でしょうか国内でしょうか?最果ての街?
愛は誰にも 負けないけれど
別れることが 二人のためよ
どうぞ帰って あの人のもとへ
私は一人 去ってゆく
出典: 空港/作詞:山上路夫 作曲:猪俣公章
本当はあなたの胸にすがりたいのよ。でもそれはできないの。
ためらいを懸命に振り切り、女は自分に言い聞かせます。
自立するたくましい女の姿が、クッキリと浮かび上がってきました。
強くなった女たち
いやあー、歌謡曲の歌詞は奥が深いですねー。噛めば噛むほど味が出ますよ。
1970年代は、女性の社会進出が声高に叫ばれた時代でした。
「ウーマンリブ(女性解放運動)」が世界的な潮流でもあったのです。
歌謡曲の歌詞にも、自力で人生を切り拓く女が登場するようになりました。
「空港」の主役の女もそうした女の一人です。自分のことは自分で決める女です。
歌は世につれ世は歌につれ。常に社会と切り結ぶのが大衆音楽ですからね。
わさみんは「空港」をどう歌う?
記事の見出しの紹介文にも書いた通り、この歌は元AKB48の「わさみん」こと岩佐美咲にカバーされています。
今年(2018年)2月の新曲、「佐渡の鬼太鼓(おんでこ)」のカップリングに、「空港」が収録されています。