レトロでローファイなCGによるアイテムやキャラクター達は不気味でちょっと怖い印象です。

しかもノイズが入っていたり、粗めの画素だったりと、とても一般的な「きれいさ」はありません。

そうしたキャラクターがハイテンポな曲にあわせて次々と現れてきます。

そのチープさがどこかかわいく愛らしく見えてくるのです。

もちろん素材のももクロメンバーがかわいいからというのはあるでしょう。

でもこの「こわいけどカワイイ」感覚はアイドルMVとしてはちょっと面白い気がします。

いや素材が「カワイイ」のですから、「カワイイけどこわいけど結局カワイイ」なのかも知れません。

レトロな電脳空間で大暴れ

暴走するちびももクロ

このMVはCGによるいくつかのシーンが細かいカットに分けられています。

レトロでチープな電脳空間。その世界に誕生するももクロの人工知能(AI)。

ももクロAIたちは「もっとやる!もっと出来る!」と叫びながら増殖していきます。

増殖したAIはあるいは人型なり、あるいは写真に憑依し、世界を浸食するのです。

AIの浸食によって暴走する電脳世界、ひずみはノイズとなりますが、暴走は止まりません。

やがて暴走したAIたちは負荷に耐えきれずに自壊し、電脳空間に秩序が戻ります。

巨大なももクロDJの前に整然と並ぶちびももクロ。

そうした中、1体のちびももクロが振り向き見つめてきます。

取り戻した秩序は決して完全ではないのです。

「サイバーパンク」とももクロ

MVサイバーパンクな世界観で彩られています。

そこではももクロは生身ではなく、アイコンでありプログラムされたAIです。

日本における「アイドル」もどこか似たような構図の上に成立しているようにも感じます。

グループによってコンセプトがあり、その体現者としてメンバーがいるのです。

グループの一員となることはグループのアイコンになることと同義となります。

個々のメンバーの個性が無視されているわけではありません。

ただグループとしてのコンセプトが優先されるため、各自の個性が表出しづらい印象があります。

無論グループにもよるのでしょう。

一方で明確なコンセプトやカラーを持ったグループの方が注目されやすいのも事実です。

そうした中、ももクロはアイドルグループとしては異色な存在かも知れません。

楽曲の振り幅も広く、これだけ認知度が上がった現在でもライブを中心に活動しています。

そのライブ既存のアイドルのライブとは一線を画しており、常に個性的です。

アイドルとしてのももクロのコンセプトは「ももいろクローバーZ」でありつづけることなのかも知れません。

そしてそれはポジティブさであり、挑戦し続けることなのだと思います。

そこにファンは惹かれるのでしょう。

「NEOかわいい」アイドル

「かわいい」と「KAWAII」

現在、日本語の「かわいい」はそのまま「Kawaii」として世界共通語として普及していきました。

ちなみに英語版ウィキペディアには「Kawaii」の欄があります。

そしてその記事の中にももいろクローバーZも写真付きで取り上げられているのです。

英語版ウィキペディアの「Kawaii」のページ。

「Kawaii」が国際的に世界共通語になった背景には「かわいい」を直訳できないということがあります。

人間を含むほぼあらゆるもの、事象、行動などが「かわいい」「かわいくない」で表現することも可能です。

「かわいい」か「かわいくない」かの規準も明確でない場合も多い。

現代日本語の「かわいい」はとても便利でとても曖昧な言葉なのです。

NEOかわいい

ももいろクローバーZ【MORE WE DO!】MVを徹底解説!NEOかわいさはどう表現されている?の画像

CHAIのいう「NEOかわいい」とは何でしょう。

それは「かわいい」が固定観念化され、ステレオタイプ化されることへの批判です。

「かわいくない」とされる容姿は欠点ではなく個性であると。

みんなが同じイメージの「かわいい」を追求した世界はつまらないでしょう。

むしろそれぞれのありのままがいちばん「かわいい」、つまり「NEOかわいい」のです。

こうした均質化し既成化された概念、固定概念への忌避感CHAI楽曲の特徴ともいえます。

そしてそうしたものを圧倒的なまでの自己肯定で乗り越えようとする。

「MORE WE DO!」にも共通する姿勢です。

MVの中の「NEOかわいい」

MORE WE DO!」のMVの世界は電脳空間。

本来は全てが0と1に置き換えられる整然として均質な世界です。

しかしちびももクロの暴走により、均質なはずの世界はノイズに侵食されていきます。

それによってもたらされる無秩序と混沌

既成概念による「かわいい」が整然とした電脳世界だとすれば、ノイズこそが「NEOかわいい」のです。

実際、ノイジーなももクロはそれはそれで「かわいらしく」見えてきます。

無論、「かわいらしくない」と思う人もいるでしょう。それこそ人それぞれです。

「かわいい」「かわいらしくない」という感覚もまた個性だといえます。

ただ「ノイズ=汚い」だから「かわいらしくない」という固定概念にとらわれて判断すべきではない。

既成概念や固定観念によって規格化された「かわいい」を破棄する。

その上で自らの価値観に基づいて自分にとっての「かわいい」を再定義する。

それが「NEOかわいい」ということなのかもしれません。

後記